賃上げにブレーキをかけるきっかけにしてはなるまい。

 2020年度の最低賃金の改定は「現行水準維持が適当」として事実上の据え置きとなり、4年連続の大幅増額の流れは続かなかった。新型コロナウイルスの影響で経済情勢が悪化する中、雇用維持を優先した判断とはいえ、これまでの積み重ねが水泡に帰しかねない。

 安倍晋三政権は「成長と分配の好循環」を図るため、最低賃金を毎年3%程度引き上げ、全国平均千円を目指す目標を掲げてきた。働く人に占める非正規労働者の割合が約4割に増え、非正規の処遇改善や正社員との格差是正が求められているためだ。

 だがコロナ禍で状況が一変し、首相は中央最低賃金審議会の議論に先駆け、苦境に立つ中小企業への配慮を求めた。引き上げ抑制を示唆したと受け止められ、中央審議会はリーマン・ショック後の09年度以来、11年ぶりに引き上げの目安額を示さなかった。

 確かにコロナ禍が企業経営に重くのしかかっており、まずは雇用の維持を優先すべきだとの考えは理解できる。しかし同時に、働く人々の暮らしをも圧迫していることを忘れてはならない。

 日本の最低賃金は、なお先進国で最低水準だ。現行の全国平均時給の901円ならフルタイムで働いても、年収は約180万円にとどまる。働いても貧困という「ワーキングプア」の解消を、これ以上放置するわけにいかない。特にコロナ禍で注目される医療・介護や公共交通、宅配など社会に不可欠な仕事に従事するエッセンシャルワーカーには低賃金の人が少なくなく、処遇改善は急務である。

 増額の是非や具体額は「第2ラウンド」の都道府県ごとの地方審議会の議論に委ねられる。地方審は地域経済の実情に応じ、賃金と雇用のバランスを取りつつ、より主体的に判断を下す必要がある。

 とりわけ賃金の地域間格差は見過ごせない。現行時給は最高が東京の1013円、最低は山形、大分など15県の790円と大きな開きがある。地域間格差は都市部への人口流出につながる。その解消を念頭に議論を深めてもらいたい。

 政府は今年の骨太方針にも「最低賃金はより早期に全国加重平均千円を目指す方針を堅持する」と明記しており、引き上げの流れを止めるべきではない。コロナ禍でも賃上げに踏み切る中小企業に補助を出すなど、国の支援強化が欠かせない。引き上げの環境づくりには国が責任を持つべきだ。