やりきれない事件に心が痛む。

 体が動かなくなる筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症した京都市の女性から依頼を受け、薬物を投与し殺害した嘱託殺人の疑いで、宮城県と東京都の医師2人が京都府警に逮捕、送検された。

 2人の認否は明らかにされていないが、これまでの捜査で、医師は現金130万円を女性から受け取っていたとみられるなど、信じがたい事実が浮かび上がっている。

 調べを尽くして、事件の全容を解明してもらいたい。

 女性は2011年ごろに発症し、死亡直前は発語や手足を動かすことができず、寝たきりだったという。しかし、容体は安定し死期が迫った状態ではなかった。

 終末期とはいえず、安楽死や尊厳死の議論に直ちに結びつけるべきではないだろう。

 日本医師会のガイドラインは、回復の見込みがなく死期が迫っている終末期の患者に延命措置の中止を認めている。それは本人の意思や医療・ケアチームの判断、家族との話し合いがあった上であり、薬物で死期を早める積極的安楽死や自殺ほう助は禁じている。

 医師2人は女性のマンションを訪れ、短時間に薬物投与したとされる。医の道を逸脱した行為だ。

 確かに女性は会員制交流サイト(SNS)で「安楽死させてください」「死ぬ権利を認めてほしい」と書き込んでいた。そこで知り合った医師が「訴追されないならお手伝いしたいですが」などと応じていたようだ。

 しかし、事件を知った別のALS患者は「死にたいと言っても、それをうのみにして死なせてはだめ」と話す。生と死の間で揺れる苦悩に、SNSで医師が死に誘導したとしたら恐ろしい。

 女性の突然の死に、支えてきた訪問医療のスタッフやヘルパー、主治医らは無念だろう。

 ALS患者に限らず、「死にたい」と思う人の胸の内にどう気づくか。自殺防止の試行錯誤を共有し、SNSを「生きたい」との希望につなぐことに活用したい。

 ALS当事者である、れいわ新選組の舩後靖彦参院議員は、事件を受けインターネットで安楽死容認の声が出ていることに懸念を抱く。重度の障害者らに「生きたい」と言いにくくさせ、生きづらくさせる社会的圧力になりかねないからだ。「生きる権利」を守る社会にしていくことが何よりも大事、との訴えは切実だ。

 「生きたい」と思える社会なのか、が問われている。