新風館の地下に6月に開業したミニシアター「アップリンク京都」。4スクリーンを備える(京都市中京区)

新風館の地下に6月に開業したミニシアター「アップリンク京都」。4スクリーンを備える(京都市中京区)

 オールナイトの覆面上映会―。かつて関西のミニシアターでは、そんな催しが盛んだった。何が上映されるかは、まったくの秘密。脈絡のない4本ほどを翌朝まで見続ける。「ヒットはしてないけど、ぜひ見てほしい」という支配人たちの思いがこもった映画を、われわれ観客も信頼して通った。新型コロナウイルスの影響を受け、集客に苦しむ京の映画館。換気や座席間隔など対策をアピールしても、すぐに客足が戻るのは難しい状況だが、動画配信では味わえない劇場の「顔」となる豊潤な試みを、今こそ深めたい。

 自粛期間中、爆発的に売れた商品がある。映画やアニメの動画配信を自宅のテレビで楽しむための専用スティック。ネット通販大手アマゾンで品切れが続いた。このほかネットフリックス、U―NEXTなど配信サービスの利用は今後も加速するだろう。

 好みの作品を検索し、いつでも見られる配信は、わが家でも子どもたちを含め愛用している。ただ、ネット社会全般にいえるが、興味のあるジャンルや作品しか探索せず、知らない世界に目が向かなくなる傾向に気を付けたい。

 劇場公開映画は飛躍的に増えている。昨年の1278本は過去最多で20年前の2倍。スマホでも撮れるような環境が後押しする。喜ばしい半面、情報が氾濫し、「一見地味だけど面白い映画が埋没してしまう」との危ぐが関係者から上がる。1本当たりの公開期間は短くなり、周知されずに終わる佳作は少なくない。

 京都ではミニシアターが急増している。京都シネマ(スクリーン数3)、出町座(同2)、復活した京都みなみ会館(同3)に加え、今夏には烏丸御池にアップリンク京都(同4)が開業した。スクリーン数は、2年ほどで倍増した形になる。客の分散を心配する声がある一方、未公開だった作品を上映できたり、過密だった上映スケジュールに余裕ができたり、利点をどう生かすか各館の腕にかかる。

 コロナ禍を受け、映画業界の常識も変わろうとしている。話題作の公開延期が相次いだ中、「風の谷のナウシカ」など、ジブリの旧作4本が6月末から劇場公開された。他の新作を観客動員で圧倒し、3週連続でトップ3を独占した。ジブリは別格としても、過去の名作を大スクリーンで見たいという需要が強くあることを裏付けた。

 各館には話題の新作だけに頼らない独自色が求められる。新旧織り交ぜた愛着わく番組、身近になったテレビ会議機能を用いた舞台あいさつなど新たな仕掛けも鍵になる。予想外の世界と出会える覆面上映的試みも期待したいが、幅広い信用を得て集客するには、ニーズを捉える耳、秀作を選ぶ目利き、会員制度の充実など地道な口コミ力が大切。劇場は、まちの顔。画一的でない表情を、スタッフだけでなく、みんなで紡ぎたい。