隼頭神坐像 エジプト 紀元前13世紀頃

<ミュージアムのちから コロナ禍に考える>

 各国の美術品を展示するミホ・ミュージアム(甲賀市)は、世界的に知られた作品も数多く所蔵する。学芸部長の畑中章良さんに館を代表する作品数点について語ってもらった。

 古代エジプトの銀製の像「隼(じゅん)頭神坐(ざ)像」は、紀元前13世紀のラムセス2世の時代に作られたとみられる。当時は本物の神のように敬われ、専属の神官が仕えて生きた人にささげるように食事などを調えていたという。館内展示のために、ほこらのような空間を準備し、厳かな雰囲気を演出している。

 イスラムの狩猟文様を鮮やかに表現した「メダリオン動物文絨毯(じゅうたん)」(16~17世紀)は、元は米国ニューヨークのメトロポリタン美術館に預けられていた。同美術館への売買契約が成立せず、ミホ・ミュージアムが入手することになった。米紙ニューヨーク・タイムズは「マジック・カーペット」と題したコラムで魅惑的な宝物がニューヨークから去ることを惜しんだ。

メダリオン動物文絨毯 イラン ケルマーン サファヴィー朝時代 16~17世紀

 名だたる品ぞろいだが、畑中さんは「学芸員にとって守る重みはどの作品も同じ」という。温湿度、空調、安全面など、できる全てを尽くす。その上で、作品にじかに触れる喜びを感じるという。1対1で向き合うと新たな発見も多い。

 2019年3月、大徳寺塔頭・龍光院(京都市北区)の寺宝を公開する展覧会を開き、同寺の象徴とされる国宝曜変天目茶碗を展示した。数百年以上守られ、歴代住職以外はほぼ誰も触れたことがない秘宝だ。

 畑中さんは、数年がかりの調査を通じて同寺と信頼関係を築き、国宝に触れることを許された。「思ったより軽い」「重心のバランスがいい」。手にした感覚を体に刻んだ。展覧会では、ただ茶碗という物として見せるのではなく、内側の神秘的な青色と斑文の輝きを際立たせ、宇宙のただ中にいるようなイメージを演出した。

 展覧会のために作品を借りる時、所有者は、借り手がどんな人物か、どのように作品を扱うかを見ていると畑中さんは感じる。「かけがえのない宝物を預かるのだから当たり前。扱い方も人間的な部分も急に身につくものではない」。プロとしての積み重ねが信頼を生み、作品を長く守っていくと考えている。

 

 ミホ・ミュージアム エジプトから西アジア、中央アジア、東アジアまでの古代オリエント美術と日本美術を収集、展示する。アメリカ人建築家I・M・ペイによる個性的な建築でも知られ、来館者の2~3割は海外から訪れる。2017年には高級ブランド「ルイ・ヴィトン」がクルーズ・コレクションを開催。巨大なランウエーが設置され、浮世絵や侍のモチーフの衣装に身を包んだ数十人のモデルが歩いた。現在は臨時休館中。甲賀市信楽町田代桃谷。0748(82)3411。