広島市への原爆投下直後に放射性物質を含む「黒い雨」を浴びたのに、国の援護対象とならなかった人とその遺族84人による集団訴訟で、広島地裁が原告全員を被爆者と認める判決を出した。

 国は黒い雨が降ったと推定した爆心地北西側の範囲を援護対象となる「特例区域」としている。判決はこの線引きを否定し、区域外でも黒い雨の影響で原爆による特定の病気にかかった原告に被爆者健康手帳を交付するよう、広島市と広島県に命じた。

 線の内か外かで対象者を決めるのではなく、一人一人の体験と健康状態に基づく被害者救済を重視した判断といえる。国は判決を真摯(しんし)に受け止め、放射線被害の実態に即した救済を急がなければならない。

 黒い雨の降雨域を巡っては、1989年に気象学者が定説より4倍広かったとする調査結果を発表している。2010年には広島市などが市のほぼ全域と周辺部で降ったと試算し、特例区域を約5倍に広げるよう求めたが、国は科学的根拠がないとして、拡大に応じてこなかった。

 判決は国の特例区域を、被爆直後の混乱期に収集された乏しい資料に基づいており「概括的な線引きにすぎない」と指摘した。正確な降雨域を示すのは困難としながらも、より広範囲に雨が降った可能性は否定できないとした。

 区域の設定範囲はもとより、そもそも援護対象区域を設けることに妥当性があるのか、問題を投げかけたといえる。

 裁判では、原告らが黒い雨によって健康被害が出る程度の被ばくをしたかも争点になった。

 国側は、被ばくを裏付ける科学的根拠がないと主張したが、判決は、黒い雨が混入した井戸水や食物の摂取で内部被ばくが想定できると指摘し、被爆者援護法が定める3号被爆者に該当するとした。

 被爆者認定には一定の条件や合理的根拠が求められる。だが、要件を厳格に運用することで、長く援護の外に置かれてきた被害者がいることを国は認識すべきだ。

 原爆投下から75年となり、被爆者の高齢化が進んでいる。国から手帳の交付事務を受託している広島市と広島県は裁判で被告となったが、被爆地自治体として援護行政を担ってきた。裁判を長引かせないよう国に働きかけるべきだ。

 国も、放射線被害に苦しむ人々に寄り添う被爆者援護法の理念に立ち返り、幅広い救済につながる手だてを急ぎ講じる必要がある。