「紙は寒漉(かんず)き」と言われ、この時季は上質の和紙が安定して漉(す)ける。井戸水の雑菌が少なく、原料となるコウゾの繊維に混ぜるトロロアオイ(植物)の粘りが長持ちするからという。その粘液は「ネリ」と呼ばれ、繊維を分散させる化学反応のような効果をもたらす▼福知山市大江町の工房で和紙職人田中敏弘さん(57)が考えるのは「水と一体となること」。簀桁(すげた)という道具をリズムよく前後に揺らすと、身体と水の動きが合う時がある。水は冷たいがいつまでも漉いていられる▼大江山の麓。水が豊富で丹後和紙の産地として知られる。地元で栽培したコウゾで漉く紙はきめ細かく、ふわっとしてやさしい。かつては町内に200軒もの製紙所があったが、今は田中さんの工房のみ▼後継者不足が課題となる中、4年前に同市内の漆、藍染めの団体と「福知山伝統文化を守る会」をつくり、互いの技が融合した商品開発に取り組んでいる▼第1弾の藍染め和紙の名刺は「漉き返し」という技法を用いた。和紙を藍染めしただけだと、乾くとそりが出る。そこで、染めた和紙を水の中で溶かし、もう一度漉いた▼「手間をかけ、どこにもまねのできないものを」と田中さん。「ネリ」の効果のように、守る会の挑戦が新たな化学反応を生み出すもとになればいい。