園芸家は欲張りだ。マッターホルンを見上げ、この山がおれの庭にあったらと考える。あの湖も、みずみずしい草原も―。今年、生誕130年を迎えたチェコの作家カレル・チャペックのエッセー「園芸家12カ月」▼庭で起きるささやかなできごとに一喜一憂する園芸家の姿をユーモアたっぷりにつづる。ほかにも現代SFの創始者、ナチスに抵抗したジャーナリスト、劇作家など多彩な顔を持つ。欲張りだったのだろう▼第1次世界大戦から第2次大戦の間に発表した作品は原子力など文明の矛盾について驚くほど予見に満ちている。「ロボット」の造語を生んだ戯曲は、人造人間が反乱し人間を滅ぼす▼原爆のような兵器が登場する話や、大戦後の東西冷戦を予兆させる物語もある。コロナによる緊急事態宣言下、研究者が新たに翻訳し始め、9月に刊行されるのが戯曲「白い病」だ▼戦争前夜の独裁国で未知の疫病がはやる。若者は無症状で知らないうちに感染を広げてしまう。今と重なるようなストーリーはどう読まれるだろう▼作品はいずれも暗い未来を描きながら希望が読み取れる。先のエッセーにこんな言葉がある。「われわれ園芸家は未来に生きているのだ。バラが咲くと、来年はもっときれいに咲くだろうと考える」。コロナの今かみしめたい。