昭和半ばまで、真夏の風物詩に「定(じょう)斎(さい)屋」と呼ばれる行商の姿があったという。豊臣時代の堺の薬商の名にちなみ、暑気あたりの薬を売る手前、笠(かさ)や帽子で日よけせず効能を示したそうだ▼地球温暖化の影響か、記録的猛暑が続く現代では危険だ。今夏はマスク着用で心配な熱中症の予防策として日傘が注目されている。強い日差しを遮る上、児童の登下校時など傘を広げて周囲と距離も保てる。「日傘男子」も増えそうだ▼コロナ禍は甚大だが、地球環境問題への関心も高めたのは、けがの功名というべきか。世界的流行に伴う外出制限や営業規制で各国の大気や河川の環境が劇的に改善した▼煙霧が覆っていたインド北部の都市に青空が戻り、イタリア・ベネチアでは観光ごみの減少で運河が澄み、住民を驚かせた。国際エネルギー機関は、今年の世界全体の二酸化炭素(CO2)排出量は8%の大幅減を予測する▼人間が活動しないことが、環境保全の最善手なのは何とも皮肉だ。喜びもつかの間、相次ぐ経済活動再開で逆戻りする傾向にあるという▼スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん(17)らは先月、対コロナと同様、気候変動も危機だと世界の指導者に抜本的な対策を訴えた。「最善を尽くすというだけでは不十分だ」と。耳が痛かろう。