「何のために警察官になったのか。何の権利があって、私たちの幸せを奪ったのか」。上司を拳銃で射殺したとして、殺人罪などに問われた当時19歳の元巡査(20)=懲戒免職=に対する裁判員裁判。被害者の井本光(あきら)巡査部長=当時(41)、警部に昇任=の妻美絵さんが証言し、涙ながらに夫への思いや元巡査への憤りを訴えた。元巡査は、公判を通じて初めて「本当に申し訳ございませんでした」と謝罪した。

 美絵さんは被害者参加制度を使って全公判を傍聴し、この日は証人出廷した。

 「4歳の長男は、最後の別れとなった葬儀場名をあげて『行きたい』と言います。父親に会えるのじゃないかと思う姿が本当につらい」。残された家族の思いを語る美絵さんは、途中から涙声になった。女性の裁判員も目頭をぬぐった。元巡査は口を震わせ、何かを吐き戻しそうな様子を見せ口元を押さえた。

 検察官は美絵さんに、元巡査が「両親を侮辱された」と供述している点を問うた。美絵さんは、少し沈黙した後、「夫は理由もなく人を愚弄(ぐろう)しない。言っていないと信じています」と強い口調で主張した。

 続いて、元巡査が被告人質問に立った。美絵さんは「今でも警察官になって良かったと思っているか」など三つ質問した。元巡査は「そう思う」などと一つ一つ時間をかけて答えた。

 滋賀県警警察官の美絵さんと井本巡査部長は警察学校の同期。2人の男の子に恵まれた。夫は育児も家事も熱心で、夏休みは遊園地に連れて行ってくれた。「世界にたった一人の優しい夫で、長男と次男には大好きな父」。美絵さんは心情を陳述した。「警察官は県民を守るため拳銃を貸与されている。でも、元巡査は自尊心を守るために夫を殺した。許せません。厳しい処罰を望みます」

 公判を通して、元巡査の表情は硬いままだった。しかし、この日の美絵さんの言葉には何度も小さくうなずいた。