イラスト・冨田望由

イラスト・冨田望由

<いきものたちのりくつ 中田兼介>

 女子大に勤めている私のまわりには、長い爪の学生がよくいます。あんなに長いと、どこかに引っかけてはがれたりしないのかしら? とよく思うのですが、そんな私の心配は、オシャレ心あふれる彼女たちにとっては髪の毛1本ほどの重さもありません。

 アカミミガメは市街地の池や川にあふれかえるアメリカ原産の外来種で、子ガメはミドリガメと呼ばれています。この種の場合、前脚の爪が長いのは、メスではなくオスです。といっても、彼の国のヒーローのように爪で天敵と戦うのではありません。この長い爪は、メスにアピールするためのものと考えられています。

 アカミミガメは水面を泳ぎながら求愛します。後ろから近づいたオスは、メスのお尻付近に鼻先を近づけてから前に回り込み、メスに向かい合います。そして両前脚を、手のひらを外に向けた形でメスに向けて伸ばし、目の前で指先をプルプルと細かく震わせます。これでメスが良いムードになって動きを止めれば、オスは再び後ろに回り込んで思いを遂げます。長い爪は、このプルプルの効き目をよくする働きがあるのでしょう。

 このプルプル、メスも行うのですが、相手はメスだったり、場合によっては石などの物だったりします。ですので、メスのプルプルには求愛の意味はなさそうです。

 それにしても、なぜオスのプルプルがメスをウットリさせるのでしょう。クジャクの豪華な羽根やカエルの大きな鳴き声が異性を引きつけるのはわかるのですが、それに比べるとプルプルは、あまりにささやかかつ繊細です。このどこに魅力があるのか心底不思議なのですが、よく考えれば私は爪でオシャレする学生の気持ちもよく分かっていないのです。カメの気持ちをあれこれ言うのは100年早いのでしょう。(京都女子大教授)

◆中田兼介 なかた・けんすけ 1967年大阪府生まれ。京都大大学院で博士号取得。著書に「クモのイト」「びっくり!おどろき!動物まるごと大図鑑」など。「図解 なんかへんな生きもの」を監修。