すし店の湯飲みにぎっしりと並ぶ魚へんの文字。鯵(あじ)、鰻(うなぎ)、鯛(たい)、鮪(まぐろ)…常用漢字表にない字が交じり、読みこなすのは難しい。漢字1文字で書き表される魚が多い中、サンマは「秋刀魚」と表記される▼細い魚体は銀色に輝く刀に似て、秋に旬を迎えるから、とか。この表現が一般に広がったのは大正期で、佐藤春夫の「秋刀魚の歌」以降という▼かつて中国ではサンマを食べる習慣がなく、漢字も作られなかったらしい。それが昨今、アジア各国で和食人気に伴い、照り焼きやフライとして需要が急増している▼サンマは北太平洋に広く生息しており、中国や台湾の漁船が公海でサンマ漁を活発化。このため日本近海への回遊が激減した、と訴える日本の求めで昨夏、資源管理を話し合う北太平洋漁業委員会(NPFC)が漁獲枠導入を決めた▼日本は昨年、8~12月に限っていた漁を改め、年間操業を解禁したものの「初夏のサンマ漁」は不漁続き。漁の本格化は脂の乗った群れが日本に近づく今月からだが、北海道で先頃、初競りのサンマにご祝儀相場ながら1匹当たり約6千円の高値が付いた▼これでは高級魚。秋到来を告げる庶民の味が食卓から遠ざかりつつある。果たしてサンマ争奪戦に歯止めがかかるのか。秋刀魚が幻の魚名になってからでは手遅れだ。