人類史上初の原爆投下から、きょうで75年となる。

 広島市での平和記念式典は新型コロナウイルス感染予防のため規模を大幅に縮小して開催される。それでも欧州連合(EU)はじめ多くの国の代表者が出席する。

 松井一実市長は平和宣言で、3年前に国連で採択されたが発効していない核兵器禁止条約について、日本政府に「締約国」となるよう強く求める。地元の被爆者団体などからも要望が出ていたという。

 それは危機感の表れでもある。

 核廃絶の歩みは遅々として進まない。それどころか、後退する局面を迎えている。

 国際的な核軍縮のルールや枠組みがないがしろにされ、無秩序化が進む。核保有国は核兵器の近代化にやっきになっている。

 世界の核弾頭の9割を保有する米ロは、冷戦終結を後押しした中距離核戦力(INF)廃棄条約を昨年8月に失効させた。

 トランプ米政権は「核なき世界」を訴えた前政権の政策を転換し、「使える核兵器」として低出力の小型核の開発・配備を進める。一方のロシアは米ミサイル防衛網を無力化しようと、極超音速の新型核を開発している。

 来年2月には新戦略兵器削減条約(新START)の期限切れを迎えるが、米国が中国の参加を主張し膠着(こうちゃく)状態だ。米ロ核軍縮の枠組みは消滅の瀬戸際にある。

 その中国は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)配備を進める。中国を縛る核軍縮条約がない中、核戦力は拡大する一方だ。

 北朝鮮の非核化を巡る米朝交渉は頓挫し、イラン核合意は秋にも完全崩壊する恐れが出ている。

 かつての核軍拡競争時代に逆戻りしかねない状況だ。

 そうした中、核の軍備管理の根幹ともいえる核拡散防止条約(NPT)が発効50年を迎えた。

 5年ごとの再検討会議はコロナで来年に延期されたが、核保有国と非保有国との溝は深く、合意文書の採択は困難とみられる。

 唯一の戦争被爆国として日本は、「橋渡し役」を自任する。だが、安倍晋三政権は「核の傘」を優先して対米同調が目立ち、こちらも後退を印象づけている。

 被爆者の高齢化は進んでいる。教訓が風化し、再び惨禍が繰り返されるようなことは、絶対にあってはならない。

 核廃絶をリードすべき日本の責任は一層重いといえる。核兵器禁止条約の発効に加わり、世界に姿勢を示してほしい。