原爆の悲惨さを描いた漫画「はだしのゲン」の主人公中岡元は、国民学校2年生で被爆したという設定だ。当時8歳とすると現在は83歳になる▼「全壊した家の中からはい出し、全身焼け焦げた人や血まみれになった人をかき分けて郊外へ逃げた」。本紙「窓」欄に先月、86歳女性の広島での被爆体験が掲載された▼ほかにも「女学校の時に飛行機の部品を削った」(90歳女性)「イナゴでタンパク質を補う」(84歳男性)などの投稿もある。戦後75年企画取材班にも80~90歳代の戦争体験をつづった手紙が続々と届いている▼「ゲン」には顔のケロイドに悩む勝子やヤクザの鉄砲玉となる隆太ら戦災孤児が登場する。飢えや肉親との死別という困難を越え、元とともに終戦直後を生き延びる姿を描いている▼投稿者の皆さんは、元や勝子らと同様の体験をしている世代だ。直筆の手紙からは、平和のありがたみと戦争を二度と起こしてはならないという切実な思いがにじむ。一方、共同通信社の被爆者アンケートでは8割が高齢化で「体験の継承が困難」と回答している▼豊かになっていく人や復興していく街を横目に元は「みんな戦争の痛みをケロリとわすれとる」「わすれるな」と繰り返す。忘却への抵抗を一人一人が考えたい75回目の「原爆の日」である。