近頃のスーパーのレジ近くには、必ずと言っていいほど床に足跡マークが貼り付けてある。会計待ちの列では、多くの人が足跡に合わせて自然と前者との間隔を空ける▼無意識に行動を促すちょっとした仕掛けだが、実はノーベル経済学賞を受賞した米教授の理論に基づいている。2017年受賞者のリチャード・セイラー氏が提唱した「ナッジ理論」だ▼ナッジには肘でつつく、背中を少し押すといった意味がある。人は合理的な判断だけで動くわけではない、ちょっと後押しをしてあげる方が良い行動につながる-と教授は主張する▼新型コロナウイルスの感染拡大で、国民の行動変容が求められている。ナッジ理論には政府も着目しており、「3密」回避に生かしてもらおうと、自治体や民間から募った事例を公表している▼宇治市は市庁舎入り口の消毒用アルコール容器を置いた台に向けて、足元に黄色いテープで矢印を引いた。これだけで手を消毒する人が1割増えたといい、他の自治体にも同じ取り組みが広がった▼長く染みついた慣習を変えるのは簡単ではないが、押しつけや無理強いをしなくてもアイデア次第で行動は変えられる。街に仕掛けられた工夫から行動変容の意図を読み解くことが、コロナと共存する時代の楽しみになるかもしれない。