濁流にのまれた鉄橋、土砂に埋もれた線路。豪雨災害のたび、被災したローカル鉄道の無残な姿に心が痛む。乗降客の少ない路線はたちまち存続の危機に直面するからだ▼地方ほど鉄道インフラは老朽化している。地域の衰退につながる廃線など誰も望まないが、コロナ禍による鉄道収入の減少もあって、膨大な復旧費用と運休期間の長期化は重い課題となる▼7月の熊本豪雨で流失したJR肥薩線の球磨(くま)川第1・第2橋梁(きょうりょう)は明治時代の建造だった。鋼材が美しい幾何学模様を描く米国製のトラス橋は、駅舎や機関車庫など沿線に点在する明治の鉄道遺産の代表として親しまれてきた▼急勾配を緩和するループ線とスイッチバックで有名な同線大畑(おこば)駅を昨夏、訪ねた。現代風に改築した駅舎の料理店で郷愁に浸って地場産野菜のパフェを食べたが、現在は休業と聞く▼駅長官舎のホテル、特産市、鉄道資料館。駅を拠点に地域が活発に観光振興を図ってきた同線の被害は450カ所にも及び、復旧の見通しが立たない▼残念ながら、今後も大雨や台風などによる鉄道の被災は発生するだろう。国は都市間の大量輸送網の整備に注力、地方の鉄道インフラの維持・強化を怠ってきた。本来、鉄道は公共的な存在だ。今こそその役割を社会全体で考えるべきではないか。