火床の前で思いを語る鳥居形松明保存会の荒毛谷さん(左)ら=2日、京都市右京区の曼荼羅山

火床の前で思いを語る鳥居形松明保存会の荒毛谷さん(左)ら=2日、京都市右京区の曼荼羅山

山の斜面にたつ火床

山の斜面にたつ火床

当日火がともされる松明

当日火がともされる松明

 盆に迎えた先祖の霊を送る伝統行事「五山送り火」が16日夜、京都市内で行われる。今年は新型コロナウイルス感染拡大防止のため規模を縮小して点火することが決まっているが、「3密」の回避と江戸時代から続く伝統継承のはざまで、送り火を担う保存会の思いは揺れた。共通するのは「送り火の本質と伝統を守らなければならない」との責任感。16日には、例年と同じように亡き人の魂を送る炎に熱い思いを寄せる。

 今月2日、五山の一つ「鳥居形」を点火する曼荼羅(まんだら)山(右京区)に「鳥居形松明(たいまつ)保存会」が入り、準備作業を行った。松明に使う木を束ね、火床周辺を整備した。「中止もやむなしと思っていたので、どんな形であれ火をともせるのは幸せなこと」。荒毛谷(あらけだに)潤会長(55)が額の汗をぬぐう。

 今年の送り火をどうしよう―。各保存会でつくる「京都五山送り火連合会」は4月から議論を重ねてきた。例年通りの実施は難しいとの意見が大半だったが、3密を回避しつつ伝統をどのように継承するか。6月末まで話し合った。

 「すごく残念。事実上の中止だと思っている」。船形萬燈籠(まんとうろう)保存会副会長の上嶌(うえしま)昇さん(55)=北区=は複雑な心中を語る。送り火に40年近く携わってきた。京都を離れても、盆には必ず帰省した。上嶌さんにとって送り火とは「生まれ育った土地と先祖、地域がつながる大切な行事」だという。

 「妙」の山で毎年の読経をする涌泉(ゆうせん)寺(左京)の八竹良明住職(69)は「妙の字には輪廻(りんね)転生の意味がある。私見だが、先祖を送るだけでなく、生けとし生けるものへの思いが込められているのでは。だからこそ完全な形でともしてほしかった」と吐露する。「妙法」の二つをともす松ケ崎立正会理事長の岩﨑勉さん(71)も「中止は考えたくなかった」と明かす。特に今年は、初めて護摩木を焚(た)くという節目になるはずだった。

 さまざまな思いが交錯する中で迎える今年の送り火。関係者の心をつなぐのは「ご先祖の魂を導く炎がなければ冥府へ帰れない」との信仰心だ。

 左大文字保存会会長の岡本芳雄さん(75)=北区=は、文字や形をなさない今年の送り火に、古くから各地で続いてきた「灯ろう流し」を重ねた。「昔の人たちはたった1本のろうそくに先祖の霊を託してきたのでは。小さな炎こそが原点だと、私は思うんです」

 今年、どこをともすかは各保存会の判断に委ねられている。「大文字」は6点。「妙」は当日、読経が上げられる場所に一番近い1点。「法」と「左大文字」は文字の中心部。「船形」は、魂をあの世に導く目印となる帆柱の1点。「鳥居形」は社号が示される額にあたる2点を選んだ。

 大文字保存会理事長の長谷川英文さん(75)は、今年の点火は例年より緊張するという。「年に1回、山の仕事をしながら亡き人をしのび、家族に思いを寄せる時間が送り火。数が少ないからこそ、今年はよりきれいな炎を付けなくては。山に向かって誰か一人でも手を合わせてくれる人がいれば、僕らの役目は果たせたと思う」

■「今年は家から」テレビやネットで生中継

 3密を避けるため規模縮小を決めたにもかかわらず、例年と違う送り火を見ようとする人でかえって混雑することのないよう、京都市下京区の京都駅ビルは16日午後7時半~9時ごろまで東広場、空中径路、大空広場の3カ所を閉鎖する。

 また、京都五山送り火連合会は「大切な人のため 送り火は家(うち)から」を合言葉に、自宅やテレビ、インターネット配信で今年の送り火を見るよう呼び掛けている。当日はNHK・BSプレミアムやKBS京都などで生中継が行われる。