お盆の帰省の是非がこれほど議論される時代もなかっただろう。新型コロナ感染再拡大の懸念から、例年混み合う駅や空港は閑散としている▼<ふるさとは遠きにありて思うもの/そして悲しくうたうもの>。複雑な心境で室生犀星の有名な詩が頭に浮かんだ人も多いのではないか。望郷の詩と思われがちだが、金沢への帰郷の際、受け入れられない悲哀を詠んだという▼かたや医療資源が十分でない地方としては、都会土産と一緒にウイルスを持ち帰られないかという不安がぬぐえない。その心象は、昭和初期に犀星の詩をもじって詠まれた川柳に近いだろうか。<ふるさとは病ひと一しょに帰るとこ>▼本来の句意は無論違う。作者の鶴彬は犀星と同じ石川県出身で、反骨の作品で知られる。出稼ぎ先の劣悪な労働環境で結核を患い、帰郷した女工たちが次々と早世する境遇に心を寄せた▼結核は次第に農村部で蔓延(まんえん)。ゆがんだ社会構造を告発し、戦争が深まると<手と足をもいだ丸太にして返し>などの句で政府批判を強めた鶴は日中戦争勃発後に治安維持法違反で検挙され、29歳で獄死する▼盆休みは終戦の日と重なり、ご先祖や先人に自然と思いが巡る。犀星や鶴なら世相をどう詠んだか。今夏は故郷が遠かった人も来年は憂いなく帰省できますように。