豚やイノシシは、人間が想像する以上に勇敢できれい好きのようだ。英国の動物学者・故ライアル・ワトソン博士は、イボイノシシがひづめと顎で毒ヘビを仕留め、決まった場所でしか排便しない習性を観察している▼犬と並び、豚は人間との関わりが長い。縄張り意識もなく協調性に富み、一度見たものは覚えてしまう記憶力があり、残飯も食べてくれる。加えて「犬よりずっと美味である」点が、私たちに十分な利益を与えた(「思考する豚」)▼豚たちのそんな一面を知ると、複雑な思いにとらわれる。近江八幡市を含む5府県に広がった豚コレラで、殺処分される豚は1万5千頭にのぼる見通しだ▼人にはうつらないものの感染力は強く、他の養豚場に広がれば経営への影響は計り知れない。このため、同じ施設で飼われていた豚は全て殺処分してウイルスを封じ込める。非情ともいえる原則だ▼食用とはいえ、手塩にかけた豚が「巻き添え」のような形で処分されるのは畜産農家にとってはつらい決断に違いない。9年前に宮崎県内で起きた口蹄疫(こうていえき)問題では約29万頭の家畜が犠牲になった▼食事の際に手を合わせるのは、命をいただくことへの感謝の意味があると教わった。殺処分の数があまりに多いと、命を奪うことへの感覚が鈍くならないか心配だ。