前のめりな姿勢に危うさを禁じ得ない。

 計画を断念した地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」に代わる新たなミサイル防衛(MD)のあり方として、敵基地攻撃能力の保有を含む抑止力向上を政府に求めた自民党の提言である。

 安倍晋三首相の意向が強く働いているとみられ、党内での議論はわずか1カ月ほどにすぎない。

 国是である専守防衛からの大きな転換となる問題である。政府は結論ありきの拙速な議論は慎むべきだ。

 提言は敵基地攻撃能力という表現を避け、「相手領域内でも弾道ミサイルなどを阻止する能力」と言い換えた。世論を意識してのことだろうが、事実上の保有を促した形だ。

 歴代内閣は敵基地攻撃能力について「法理的には自衛の範囲」とし、憲法上許されるとの解釈を踏襲してきたが、実際には専守防衛の観点から保有していない。日米安全保障条約でも米軍を「矛」、自衛隊を「盾」とする役割分担を維持してきた。

 提言は「迎撃だけでは防御できない恐れがある」として、日本がより主体的な取り組みを行うよう求めている。

 政府は、相手国がミサイルに燃料を注入するなど発射の準備を始めた時点で発射台などを限定的に破壊できるとみている。

 だが、そうした能力を持つには、攻撃の兆候をつかみ、相手国の防衛網を突破して正確に目標だけを狙える装備を整えなければならない。技術面でも費用面でも簡単な話ではない。

 特に北朝鮮の弾道ミサイルのように発射台付きの車両や潜水艦に搭載された場合、発射の兆候をつかむのは難しい。つかめたとしても、日本を狙ったものかどうかを判別し、武力行使に着手したと判断するのはなおさら困難だ。

 着手を見誤れば、国際法が禁じる「先制攻撃」となり、全面戦争に発展しかねない。

 公明党だけでなく自民党内にも慎重論があるのは当然だろう。

 日本の政府は、敵基地攻撃能力と先制攻撃の意味を分けているが、国際的には同じだという専門家の指摘もある。

 政府は既に国家安全保障会議(NSC)で検討を本格化させている。9月中に方向性を出すとしているが、立ち止まって平和国家にふさわしい防衛議論を深めるべきだ。戦後積み上げてきた非戦の歩みを無にしてはならない。