中東和平は、イスラエルと平和的に共存するパレスチナ国家を樹立する「2国家解決」しかないというのが国際的な合意だ。この解決なしに真の和平はない。

 イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)が国交正常化で合意した。仲介役の米国を交えた3カ国の共同声明で明らかにした。

 イスラエルとUAEが数週間以内に相互の大使館開設や安全保障、投資などに関する合意に署名するという。トランプ米大統領は「歴史的だ」と称賛した。

 だが、11月に大統領選を控え、外交的成果を急いだ側面が大きい。本来目指すべき「2国家解決」が遠のき、地域がさらに不安定になりかねない。

 パレスチナ人は1948年のイスラエル建国に伴い故郷を追われた。同情するアラブ諸国はイスラエルとの対立を深め、4度の中東戦争に発展した。

 パレスチナ問題の解決なしに、イスラエルとの国交正常化はない―。2002年のアラブ連盟首脳会議で採択された包括和平案は、アラブの総意に基づく中東和平交渉の土台となった。

 それが、今回の合意でほごにされてしまった。パレスチナ自治政府が「裏切り」と非難し、撤回を求めたのは当然だ。

 背景には、11年の民主化運動「アラブの春」以降、アラブ世界の秩序が崩れ、イランが影響力を大幅に高めたことがある。親米のアラブ諸国が、イランこそが最大の脅威だと位置付けるようになったとされる。

 そういう面はあるとしても、パレスチナ問題を棚上げする理由にはならない。極端なイスラエル寄り政策を続けるトランプ氏がつけ込み、イラン核合意を破棄するなど中東の混乱に拍車をかけているのは大きな問題だ。

 ペルシャ湾岸にイスラエルと外交関係を持つ国ができることは、対岸のイランを刺激する。UAEに拠点ができれば、紛争時にイランの攻撃対象となるだろう。原油生産の中心地であるペルシャ湾の火種が増えることになりかねない。

 今回の合意には、イスラエルが占領地ヨルダン川西岸の入植地併合を一時停止することも盛り込まれたが、トランプ氏の言う「大きな譲歩」にはほど遠い。

 そもそも占領地に自国民を移住させるのはジュネーブ条約で禁じられており、国際法違反だ。

 日本を含む国際社会は「2国家解決」という原点を忘れてはならない。