アイヌ民族の「先住権」回復への転換点となるのだろうか。

 北海道浦幌町のアイヌ団体が、地元の川でのサケ捕獲は先住民族の権利だとして、国と道を相手取って漁業権を認めるよう求め、札幌地裁に提訴した。先住民族の集団が伝統的に占有してきた土地や資源を利用する先住権の確認を求める訴訟は初めてだ。

 アイヌとって、サケは重要な生活の糧であると同時に、アイヌ語で「カムイチェプ(神の魚)」と呼ばれる特別な存在だった。ところがサケ漁は明治期以降、水産資源保護法などで禁じられた。

 訴状によると、原告は江戸時代に浦幌十勝川周辺で暮らしていたアイヌの子孫らで、明治政府が禁じるまでサケ漁で生計を立てていたコタン(地域集団)から、漁をする権利を引き継いでいると主張。これを禁じた法令が適用されないことの確認を求めている。

 明治政府の北海道開拓に伴い、アイヌは北海道旧土人保護法に基づく同化政策により土地、資源、狩猟や漁業といったなりわい、独自の文化、言葉まで奪われた。

 2007年の国連先住民族権利宣言は、先住民族の権利を認め、日本も賛成した。だが昨年5月に施行されたアイヌ施策推進法は、法律で初めてアイヌを「先住民族」と明記したものの、先住権には触れなかった。訴訟の背景には文化・観光施策が目立つ新法への不満があるのは否めない。

 国は、サケ捕獲権などを有するコタンは既に存在しないとの立場だ。加えて土地や資源の権利回復が次々と具体化するのを危ぶみ、先住権を巡る議論を棚上げにしてきた。だがアイヌの多くは大上段に先住権を振りかざすつもりはなく、現実的な権利回復を求めているにすぎないのではないか。

 アイヌがこの150年間に失ったものはあまりに大きい。同化政策が生んだ矛盾を解消する責任は国にある。問題解決には権利の回復に向き合うことが欠かせない。

 訴訟の争点は、明治政府の土地取得の違法性や、原告がコタンの権利を継承する集団に当たるかどうか、などとみられる。形式的な法律論争にとどめず、先住権の本質を見据えた審理を求めたい。

 国連の人種差別撤廃委員会は18年、アイヌの先住権が十分に保障されていないとし、日本政府に権利保護を勧告した。米国やカナダなど、世界的にも先住権が復活されつつある。日本がアイヌの人々の権利をどのように保障していくか、国際社会が注視している。