8月18日 90年前の自由恋愛
 90年前の昨日から本日、谷崎潤一郎、千代、佐藤春夫三者より離婚と結婚のあいさつ状が各地に届く。妻譲渡事件として一大センセーションに。戦前の日本、庶民の目には文豪たちの自由すぎる恋愛、所業はどう映ったでしょう? 当時の新聞の論調は意外と穏やか、小説家・里見弴の談話も「朗(ほがら)かな感じ」と楽観的、自身駆け落ち歴のある歌人・柳原白蓮は「汚(きた)なく考へたくない」と好意的。今ならSNSで思い切りたたくのかな。

8月19日 俳句の日
 今日は俳句(819)の日。正岡子規、高浜虚子などの出身地・松山市で開かれる8月の「俳句甲子園」も有名となり、また同市在住の俳人夏井いつきさんの手厳しい批評が人気のテレビ番組などによって、作句や季語の楽しさが茶の間に広く浸透し始めていることを頼もしく思います。たった17文字。そぎ落とす技術が必要となる俳句。夏井さんの「全部書かなくても伝わる。もっと読み手を信じなさい」という言葉が響きました。

8月20日 林芙美子の昭和
 昭和時代、戦争前後の庶民の暮らしをリアルに描いた作家として私がまず思い浮かべるのは林芙美子です。極貧の中、昭和とともにデビュー、「放浪記」がベストセラーに。47歳で亡くなるまで多くの人間像を女性の視点で冷徹に著し、共感を集めた。「無限な宇宙の廣(ひろ)さのなかに 人間の哀れな営々とした いとなみが 私はたまらなく好きなのだ」は、絶筆「めし」の映画冒頭に掲げられた彼女の言葉。そう、それが林文学。

8月21日 サラリーマン小説
 源氏鶏太作品は中学生の頃、親の本棚で見つけ、「最高殊勲夫人」など何冊か読みました。サラリーマン小説ですが、今のラブコメの要素もあり、これで私は大人の世界を学んだ。親御さんは本棚管理には注意を払わねばならぬわけですが、それはさておき昭和高度経済成長期の元気な男女の物語は(今では問題表現も多いけれど)おおらかで無類の面白さ。近年は復刊が続き、獅子文六ともども小さなブームとなっています。

8月22日 向田邦子死す
 1981年、39年前の今日、台湾の航空機事故で突如天才を失いました。向田邦子。脚本家・エッセイスト・小説家、享年51歳。「時間ですよ」「阿修羅のごとく」「あ・うん」「父の詫び状」「眠る杯」…どの作品も昭和を生きる、明るくせつない庶民の暮らしが躍動しています。「花ひらき はな香る 花こぼれ なお薫る」。森繁久彌による墓碑銘に大きくうなずく。平成を越え、令和に入っても、なお高く薫る向田文学。

8月23日 母よ-
 「母よ―淡くかなしきもののふるなり 紫陽花(あぢさゐ)いろのもののふるなり」。この「乳母車」を昭和元年に発表、激賞を受けた詩人・三好達治。動植物、昆虫に詳しく、海山川、家族…愛する日本の風土に西欧の洗練を融合させた天才です。生涯の作品を鳥瞰(ちょうかん)すると、誠実で素直な人柄に打たれる。敗戦後の詩にはこんな一節が。「みんなで希望をとりもどして涙をぬぐって働こう」。真っすぐな人。彼の誕生日の今日は、処暑。

 

~親の本棚~

 

<文 澤田康彦 絵・題字 小池アミイゴ>

 朝の1面コラムで谷崎潤一郎について書くため引っ張り出しておいた本が消えました。いつも資料本数冊を抱え、書斎から台所、トイレへと家中をうろうろしているので、なくなると捜索が大変なのです。東京から持ち帰ってきた書籍もまだ分類途上で、そこに紛れてしまったかもと、せっかく整理した箱をまた開けてみるものの、見つからず。

 あちこち捜しつつ、息子の本棚にふと目をやると、そこで発見しました。「おしりたんてい」シリーズの隣に眠る文豪! 木を隠すなら森に、本は本棚に、なんて隠されたわけではないけれど、これは見つけにくい。片付けをと命じられた息子が父親のものまで片付けてしまった。小2男子は「しつれいこかせていただきました。ぷぷっ」と、おしりたんていまがいのセリフ。ろくでもありません。

 子どもたちは本が好きなようで、それぞれの本棚はあふれんばかりになってきました。夏休み+コロナ禍+猛暑でずっと家にいる2人、宿題をちょこっとやったかやらないかの後は、テレビかゲームかケンカか読書。本棚整理も楽しい様子で、娘は近頃は望月麻衣著「京都寺町三条のホームズ」を全巻、番号順に並べてにまにましています。わかる。番号順、大事なんだよね。中2の頃のぼくは創元推理文庫のアガサ・クリスティを買いそろえていたことを思い出しました。ああ懐かしき背表紙の「?(はてな)」マークよ。

 娘は最近父の本にも触手を伸ばし始めています。ぼくも親の本棚には結構手を伸ばした。中央公論社「日本の文学」全集で作家や作品の名前を覚えたし、コラムには書き切れなかったけれど、中間小説も源氏鶏太のほかに梶山季之や川上宗薫なんていう、中学生には猛毒のようなものもありました。でもこれで社会や男女の理(ことわり)を学んだ実感はあります。

 ぼくの本棚の管理も甘い。こんな大量にあってはできるはずもない。書物にはR指定がなく、とっさの判断も不可能です。娘が伊坂幸太郎にはまりつつあるのをとてもうれしく迎えながら、「毒」はなかったっけ? と少しハラハラ。自分の過去を棚に上げて(本棚に上げて?)よう言うなあ、でありますが。

 あ、あと、文豪とて、谷崎潤一郎は相当に毒物だと思います。(編集者)

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澤田康彦 さわだ・やすひこ 1957年生まれ。編集者・エッセイスト
小池アミイゴ こいけ・あみいご 1962年生まれ。イラストレーター