大学紛争の嵐が吹き荒れた1969年、京都大であった学生との総長団交は2昼夜に及んだ。当時の総長は「トンさん」の愛称で親しまれた故奥田東(あずま)さん▼奥田さんは飛び交う怒号に顔色一つ変えず、たぬき寝入り戦術も使って乗り切る。「時間をかけ反対者の声もとことん聞いて決める」が持論だった▼京大は奥田さんら数々の「名物総長」を生んできた。ゴリラの生態研究の第一人者である現総長の山極寿一さんの選考時には学生有志が研究現場から離れることを危ぶみ、票を投じないよう呼び掛けるビラを張り回る珍事が起きた▼その山極さんは来月末で任期満了を迎える。次期総長になる理事の湊長博(みなとながひろ)さんは記者会見で「現代に求められるミッションを果たしたい」と語った▼山極さんが総長を務めた6年間、大学周辺の立て看板の撤去や吉田寮生の立ち退きを求める訴訟の騒ぎが注目を集めた。「自由の学風」にそぐわない強引さだ、と学内から批判もある▼先の奥田さんは著書「おもいで」で大学運営について、規則ずくめのやり方でなく「良識の府」らしく、みんなの了解で補うのが良さだとした。学長のトップダウンが強くなる時代、反対者の声もとことん聞く姿勢は貴重に思える。ミッションに加えると京大の魅力はさらに高まると思うのだが。