ヤマトシリアゲのオス。腹部が上がっているのが名前の由来

ヤマトシリアゲのオス。腹部が上がっているのが名前の由来


<いきものたちのりくつ 中田兼介>

 最近は婚約のときに結納を納めることが少なくなりました。かくいう私は「あんなのただの儀式」とうそぶいていたら私抜きで結納を済まされてしまった人なので、えらそうなことは言えません。そういえば婚約指輪も贈りませんでした。だって食べられないものに高いお金など払えないではないですか。

 求愛するときに何かを贈ることを動物行動学では「婚姻贈呈」と呼びます。プレゼントされるものとしては、自分で採ったエサや、栄養分いっぱいの分泌物が主で、花より団子の世界です。婚姻贈呈は昆虫で特に多く見られ、オドリバエやキリギリスの仲間、チョウやガの仲間などで有名です。

 シリアゲムシの仲間にも婚姻贈呈するものが見られます。日本で見られる代表的な種類がヤマトシリアゲで、オスのおなかの先がクルッと背中側に巻き上がっているのが名前の由来です。ヤマトシリアゲは死にかけの昆虫や死体をエサにし、クモの網から死体を盗み取ったりもします。エサを見つけたオスはフェロモンを放ち、引き寄せられてきたメスにプレゼントして交尾します。

 しかし、オスがやってくることもあり、そうなるとオス同士で争いが始まります。オスの巻き上がったおなかの先にはハサミのような部分があり、これは本来交尾のときにメスをつかむためのものですが、これを使って相手の体を挟んだりしてケンカします。負けたオスは、やむなくエサなしで求愛することになるのですが、受け入れてもらえることは少ないのだそうです。それはメスだって、エサをくれるオスを選ぶに決まっています。大変身につまされます。

 婚約指輪を買わなかった若い頃の私が未来の妻においしいものをたくさんごちそうしたかというと、そんなこともなかったりします。今思えば、よく家庭を持つことができたものです。(京都女子大教授)

◆中田兼介 なかた・けんすけ 1967年大阪府生まれ。京都大大学院で博士号取得。著書に「クモのイト」「びっくり!おどろき!動物まるごと大図鑑」など。「図解 なんかへんな生きもの」を監修。