三井不動産の会長などを務めた実業家の故江戸英雄さんは、大の園芸愛好家でもあった。その様子は随筆「わが家庭菜園」に詳しい▼農家育ちで、東京で就職すると下宿の物干し台にビール箱を置き、土と馬ふんを混ぜてトマトを作ったのが始まりだった。その後、栽培場所は庭や会社の農場へ広がる▼敗戦前後の食料難時代には、土いじりが高じて「戦時農園」を数カ所つくり、都民に野菜作りの指導までしたというから驚く。朝は暗いうちから起き出し、夕刻も会社から帰るとすぐに畑に出て真っ暗になるまで作業したという▼江戸さんほどではなくても土いじりが好きな都会人は多い。コロナ禍で巣ごもりが増え、野菜作りを始めた人も少なくないと聞く。市民農園を借りたり、ベランダで寄せ植えをしたり、やり方はそれぞれである▼中には、食べた野菜や果物の種を捨てずにプランターや植木鉢にまき、再収穫を試みる人もいる。育てる喜びが得られるだけでなく、多少なりとも食生活を補ってくれる点が家庭菜園のよいところなのだろう▼梅雨の長雨と日照不足、そこへ猛暑も加わり、野菜の高騰が続く。こんな時でも家庭で野菜を育てられたら少しはピンチをしのげる。食をできるだけ自給する社会でありたい。たかが家庭菜園と軽んじることなく