太夫の飛沫の実証実験の結果、前方1メートル程度に飛散することが判明。当面、近くの席の販売はとりやめる(レーザー光線から目を守るために太夫は実験時にゴーグルを装着した)=国立文楽劇場提供

太夫の飛沫の実証実験の結果、前方1メートル程度に飛散することが判明。当面、近くの席の販売はとりやめる(レーザー光線から目を守るために太夫は実験時にゴーグルを装着した)=国立文楽劇場提供

人形遣いがかぶるフェースシールド=文楽協会提供

人形遣いがかぶるフェースシールド=文楽協会提供

 コロナ禍の中、公演中止が続いた人形浄瑠璃文楽に、いよいよ再開の動きが出てきた。大阪・国立文楽劇場は8月22日に「素(す)浄瑠璃の会」を開催。これまでにない有料の動画配信にも乗り出した。人形を交えた本公演も9月には東京、10月末からは大阪で復活。太夫の飛沫(ひまつ)の実証実験も行って、対策を取っている。 

 

 再開に先立ち、太夫が語る際の飛沫の状況も実験。大阪市立大の掛屋弘教授(臨床感染制御学)の協力を受け、特殊なレーザー光線で測定したところ、太夫が語る際には口元から前方1メートル程度の飛散が見られた。このため、劇場では、太夫・三味線が座る床近くや最前列の客席の販売を取りやめ、最低2メートル以上の距離を確保することにした。太夫・三味線の演者同士も1メートル以上の間隔を空ける。


 また、文楽の人形は、1体につき3人の人形遣いによる「3人遣い」が基本。密接に息を合わせる必要があり、「3密」が心配になるが、実証実験の結果、「三番叟(さんばそう)」のような激しい人形の動きをしても、主(おも)遣い(中心となって人形を動かす人)からは飛沫の飛散は、ほとんど確認できなかったという。ただ、念のため、人形遣いが頭巾をかぶる場合は、特製のフェイスシールド(顔の覆い)を装着するなど、対策を取る。

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 「それはあんまり胴欲な」「知らなんだ、知らなんだ、知らなんだわいなあ」…。春以降、公演中止が続いていた大阪・国立文楽劇場は、8月22日の「素浄瑠璃の会」から公演を再開した。
 京都市在住の竹本千歳(ちとせ)太夫(61)は鶴澤清介(せいすけ)(67)の三味線で「恋女房染分手綱(こいにょうぼうそめわけたづな)(重の井(しげのい)子別れ)」を披露。かつて生き別れた母子が近江の宿場で再会したものの、身分の違いから公に名乗り合えない悲しみを描き出した。馬を引く「馬子(うまご)」をしている子の三吉(さんきち)が、幕切れに歌う「馬子唄(まごうた)」は、悲しみをこらえ、努めて明るく歌い出そうとする健気(けなげ)な声が、切なさを誘う。


 ♪坂は照る照る、鈴鹿は曇る。土山間(あい)の間(あい)の、土山、雨が、降る
 鈴鹿に向かう甲賀辺りの東海道筋だろうか。「雨が、降る」のくだりは、母子の心にしたたる涙を、例えているようで、深い余韻を醸した。 

 人形も加えた本公演としては、9月の東京・国立劇場公演(5~22日)から再開。本場である大阪・国立文楽劇場では、4月や夏の本公演が中止となったが、錦秋公演(10月31日~11月23日)から再開する。感染予防対策として、従来の2部制とは異なる3部制を採用。1部(午前10時半開演)は近江が舞台の「源平布引滝(ぬのびきのたき)」、2部(午後2時開演)は「野崎村」と「釣女(つりおんな)」、3部(午後6時開演)は「本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)」を上演する。