<しきしまの大和心のおおしさはことある時ぞあらわれにける>。安倍晋三首相は施政方針演説で、災害が相次いだ平成を振り返り、明治天皇が日露戦争開戦時に詠んだ歌を引いて、国民が力を合わせるよう求めた▼五七五七七の三十一(みそひと)文字は、比較的容易に人々の口に上り、心に刻まれる。近代は戦意高揚を図る歌が数多く詠まれた。<しきしまの―>も、そうした歌に数えられる▼<息のをの絶むとすれど笛の音を猶(なほ)たゝざりしますらをあはれ>。歌人佐佐木信綱が日清戦争の成歓(せいかん)の戦いで戦死したラッパ手を詠んだ一首だ。死の瞬間までラッパを吹いていたという逸話は、当時、修身の教科書にも登場した▼「国民の戦意を掻(か)き立(た)てる役割を果たすことになった。その最初の事例と言って良いかもしれない」。歌誌「塔」編集長の松村正直さんは、昨年末発刊の「戦争の歌」でそう評する▼松村さんは同書で、これらの時代の代表歌51首を読み解いた。そして、さまざまな「報道」を手がかりに歌を作る難しさを、現代の時事詠や社会詠にも重ねて問う▼施政方針演説に、きな臭さを感じるのもうがち過ぎなのかもしれない。<よもの海みなはらからと思ふ世になど波風のたちさわぐらむ>。日露開戦時、明治天皇に平和を願う歌があることも心に留めたい。