バスを降りて住宅街を抜け、樫原廃寺跡(京都市西京区)に立った。中央に珍しい八角形の基壇がある。平安京以前に渡来人の秦氏が建てたとみられる伽藍(がらん)を、あの人も思い浮かべただろうか▼ノーベル化学賞の吉野彰さん。京都大に入学後、考古学研究会に入り、発掘調査に汗したのを楽しそうに語っている。遺跡の保存運動にも加わっていて、国の史跡指定に一役買ったかもしれない▼理科系なのに、なぜ考古学に? 「専門分野だけでなく、いろんな見方をできる方がいい」「発掘は全体像を予想して本格的な調査に入る。研究開発も、全体像を見ることが大切」と記者会見で話したのが印象に残る▼このところ大学では専門教育が重視され、1・2年生の教養教育が少ないという。偉そうなことはいえないが、専門外のいろんな知に触れ刺激を受ける機会が減っているのなら、何とも寂しい▼考古学は研究に生かされたかとの質問に、吉野さんは「歴史は流れを読めば未来が読める」と答えている。身につけた教養は役立つかどうかではなく、その人の見方を豊かにし、支えるものでは、と受け止めた▼相対性理論のアインシュタインは終生、バイオリンを愛し演奏していた。若いうちに教養をたっぷりと充電しておく大切さを、先達は教えてくれている。