収束する機運もあったシリア内戦が、再び混迷を深めそうだ。

 隣接するトルコが、敵視するクルド人勢力を狙った新たな軍事作戦をシリア北部で開始した。
 クルド人戦闘員や民間人に多くの犠牲が出ている。避難民が7万人に達したとの観測もあり、人道危機が広がる可能性がある。

 引き金になったのは、シリア北部からの米軍の撤収開始だ。

 クルド人勢力は過激派組織「イスラム国」(IS)掃討への協力で米軍の支援を受けてきたが、米軍から見捨てられる形となった。そこへトルコが攻撃を始めた。

 シリアからの米軍撤収は、トランプ米大統領の公約である。来年に大統領選を控え、実績づくりを優先したとみられる。

 トルコが軍事行動をやめるべきであることは言うまでもない。

 ただトランプ氏も、米軍の撤収がシリア国内勢力の均衡を崩し、中東地域を不安定化させることに気づかなかった訳ではあるまい。

 国内にクルド人勢力による独立闘争を抱えるトルコは、自国への波及を警戒してシリアのクルド人勢力を「テロ組織」と見なしている。米軍が撤収すれば、シリアのクルド人をトルコが攻撃する可能性はかねて取りざたされていた。

 トランプ氏が完全撤収を決めたのは昨年12月だが、自らの安全保障チームの助言を無視した独断だったという。中東情勢をふまえた判断だったのかどうかは疑問だ。無責任が過ぎるのではないか。

 シリアのクルド人勢力はIS掃討作戦で多数の戦闘員を拘束しており、トルコの侵攻で混乱が拡大すれば戦闘員の逃走やISの勢力回復につながる恐れがある。

 米国に裏切られた形のクルド人勢力は、対立してきたシリアのアサド政権に接近する考えを示しているといい、シリア内戦の構図が変わる可能性もある。

 トルコは国境からクルド人勢力を一掃してシリア側に安全地帯をつくり、国内のシリア難民を帰還させるとするが、作戦が不調に終われば、帰還どころか新たな難民を生み出しかねない。

 そうなれば、事態収拾はますます難しくなる。

 米政府はトルコの侵攻を支持していないと強調しているが、トランプ氏による展望なき独断の結果は国際社会に大きな混乱をもたらすことになりそうだ。

 日本はトルコと友好的だが、侵攻を黙認しているととらえられてはなるまい。シリアの内戦終結へ貢献できる方策を考えたい。