シカの足の肉を触る生徒たち。手分けしてさばいた(京都市左京区久多)

シカの足の肉を触る生徒たち。手分けしてさばいた(京都市左京区久多)

 農家民宿を教育体験や修学旅行として利用するケースが近年増えるなか、不登校の経験などがある子どもをサポートする通信制高校を受け入れる数少ない例があると聞き、京都市左京区久多地区を訪ねた。自然豊かな暮らしを生徒が体験して学ぶ姿を見ると同時に、少子高齢化する地域住民にとっては若い人たちが希望の活力をもたらす可能性があることも知った。

 築250年以上の農家民宿「おくで」で、豊翔高等学院(大阪市)の9人がシカ肉を前に包丁を握り、大きな太ももの肉をはがした。宿を営み、教育プログラムを企画運営する会社社長奥出一順さん(53)は「シカがおりにかかると、周辺に足跡が増える。家族が探しにきているんや。でもかわいそうでは済まない。命の犠牲の上にいると認識してほしい」と語り掛けた。

 おくでには現在、通信制高2校の生徒がそれぞれ年2回、4泊5日の日程で訪れる。「いなか塾」と題した体験プログラムで、冬場はみそ造りや雪上の運動会、雪かき、ニワトリの世話などを体験する。2年横田歩夢さん(16)は「毎日くたくたで夜はすぐ寝ます」と充実した表情だ。

 奥出さんがプログラムを作ったきっかけは、発達障害がある次男を受け持っていた教員から「がんばりたくてもがんばれないつらさを分かってあげて」と言われ、自身の無理解を突きつけられた経験からだ。不登校などさまざまな背景がある生徒を対象に、健やかに生きることを伝えようと思ったという。

 ここでの体験が転機となり、現在は体験プログラム実習を手伝っているのが、高2のときに久多を訪れた大谷大2年の原高典さん(20)=北区=だ。原さんは中学の3年間、ほとんど通学できず、当時は「人生終わった」と思っていた。農村暮らしやみんなで囲む食事、話し合いなどを経験し、「北海道に移住しゲストハウスをする」という夢ができた。大学では地域活性化について学び20歳になると同時に狩猟免許を取得したという。

 「おくで」では、団体宿泊者を近くの農家民宿へ数人ずつ振り分けたり、高齢者がわら細工など暮らしの知恵を伝える講座を設定するなど住民と生徒たちが触れあう機会もつくり出している。

 京都市から農家民宿(農林漁業体験民宿)として許可されている13軒のうち、5軒が久多地区に集まる。豊かな自然環境の半面、少子高齢化に直面している。人口73人・34世帯(1月現在、京都市人口統計)となるなかで、久多自治振興会会計担当の河原康博さん(70)は「農家民宿が増えるのは若い方がここに興味を持つきっかけになり、うれしいことだ」と声を弾ませる。

 奥出さんは「ここの暮らしに誇りを持ち、『育む里』にできれば。元気な集落になれば残っていける」と希望を託している。