世をにぎわせている物事の中心人物を「台風の目」という。将棋界では藤井聡太二冠だろう。本物の台風の目は空洞とされるが、どうなっているのか▼<眼の中は静穏で、温かく、乾いた世界だった>。3年前、日本人研究者として初めて航空機で台風の目の上を飛び、直接観測したのが気象学者の坪木和久さんだ。今春出版した「激甚気象はなぜ起こる」でつづっている▼危険だが「虎穴に入らずんば虎子を得ず」のことわざもある。台風の強度予測の精度アップに生かす計画で貴重なデータを得た。温暖化が進めば極めて強い「スーパー台風」が襲来する恐れもあり、観測の意義は大きい▼日本列島は近年、激甚災害が続発している。気象庁が「命にかかわる非常事態」とする豪雨、猛暑、台風などの激しい現象を坪木さんは激甚気象と呼び、メカニズムを自著で解明する▼その主役は大気と水蒸気だ。精密で巧妙なからくりの中でまれにしか起きないものの、巨大なエネルギーが集中する時があるという。気候変動に伴い、強い台風の頻度が増えないか心配だ▼コロナ禍の中、本格的な台風シーズンに入る。坪木さんは戦前の寺田寅彦の随筆「天災と国防」も引用し、激甚気象から命を守るため気象を知る大切さを説く。台風の目と動きに注目し、備えたい。