安倍晋三首相の突然の退陣表明を受け、後継を決める自民党総裁選に向けた動きが加速している。

 岸田文雄政調会長が立候補を明言し、菅義偉官房長官は出馬の意向を固めた。前回2018年の総裁選に挑んだ石破茂元幹事長も意欲を示しており、各派閥が意見集約を急いでいる。

 党執行部は、緊急時の党則を適用し、国会議員1人1票と、47都道府県連に3票ずつの計535票による両院議員総会での投票で新総裁を決める方針という。党員・党友投票を実施せず、議員中心の選出方法となる。

 新型コロナウイルスへの対応が求められる中、一刻も早く新総裁を選ぶ必要があるとするのが党執行部の立場だ。だが、党の総裁公選規程は、国会議員票と、その同数の党員・党友票で選出することを原則としている。

 党員や党友の意思を顧みず、議員の数あわせで決まるようでは、「密室政治」との批判は免れないだろう。

 総裁選は事実上の首相選びでもある。党員らを含めて7年8カ月の安倍長期政権を総括し、その上で候補者が政策論争を闘わせる、開かれた選挙戦にしなければならない。

 党員・党友投票を省略した総裁選は過去にも行われている。ただ、今回省略するのは、地方の党員に人気の高い石破氏が有利になるのを党執行部が嫌ったとの見方もある。誰かの有利不利を考慮するのではなく、党全体のあり方を考えた判断をすべきだ。

 安倍氏は衆参6回の国政選挙で勝利し、強固な「安倍1強」体制を築いた。高い支持率を背景に政策を推し進めてきたが、一方で党所属議員の多様な意見が封じられた面は否めない。

 幅広い意見を踏まえて党の現状を見つめ直すことは、党にとってもプラスになるはずだ。総裁選をその機会としなければならない。

 総裁選を目指す有力者も、政権運営の構想を分かりやすく示すことが求められる。

 安倍政権の新型コロナ対応は後手に回ったとの批判が高まり、内閣支持率は低迷している。国民への説明責任を果たそうとしなかった姿勢が、政治への不信を深めたのは明らかだ。

 激動する国際情勢の中でどのような外交を進めるのか、足腰の強い経済をどう実現させるのか。安倍氏の路線を引き継ぐにしても、新たな手法を志向するにしても、長期政権をしっかり検証し、議論することが欠かせない。