1998年に伊藤忠商事の社長に就任した丹羽宇一郎さんは自らの任期を6年にすると公言した。会社は巨額の不良債権を抱え、その処理が懸案だった▼なぜ6年か。経営再建にはそれくらいの期間が必要であり、自分の情熱が続くのもそれぐらいだと判断したから-と著書に記す(「社長って何だ!」)。就任翌年に不良債権の一括処理に踏み切り、発言通り6年後に退任した▼トップが自分の任務を的確に認識し、集中力を持続させていくことの重要さを物語る。7年8カ月も政権の座にあり、先月28日に辞任表明した安倍晋三首相は政治の課題を把握し、集中力を保てていたのだろうか▼体調不良とはいえ、コロナ禍では対応が遅れ、国民に説明する姿勢に欠けていたように見える。そもそも首相就任4年を過ぎたころから森友・加計問題などが次々に表面化し、国会答弁にも余裕を失っていた。近年は政権維持が目的化していた感もある▼権力の甘い味を一度経験すると、「今、辞めてもらっては困る」とのお世辞を本気にしてその座にしがみつく-。丹羽さんは任期を公言した理由をこう語る。トップは引き際も難しいということだろう▼権力の魔力に屈せず、やるべき課題に全力で取り組めるか。安倍氏後継を狙う人々は、そんな能力も問われている。