木像は朽ちて手足の先がない。顔は摩耗し表情さえ分からない。虫食いの跡も多く、触れれば崩れそうなほど。それでも木の塊は、静かに立ってほほ笑むようだ▼異形の「いも観音さん」は観音の里・長浜市木之本町西黒田の安念寺に伝わる。平安時代の作で、天然痘などの身代わり観音という。もちろん当初からこんな姿ではない▼湖北は古くから姉川の戦いや賤ケ岳の合戦など戦火に見舞われ、村々は仏像を土中に埋め、川に沈めて守った。名高い渡岸寺の国宝十一面観音像もそうして伝わった▼いも観音も他の十数体と田の中に隠されて織田信長の兵火などを逃れた。掘り起こされるたびに川でいものように洗われ、子どもと川遊びした。仏像の名はそんな親しみがこめられる▼今、苦楽を共にする村の守り仏の住まいがピンチだ。安念寺には住職がいない。集落の10戸が世話してきたが、仏像を安置する観音堂が長年の風雨で老朽化してしまった▼「うちのホトケさんを守らねば」。藤田道明さん(74)ら保存会はお堂修復のためクラウドファンディングを始めた。支援額に応じて古材入りお守りや地元の米を贈る。10月末まで募るが、既に目標の200万円の7割に近づいている。戦禍と災厄をくぐり抜けたように現代の守り方でこの危機を乗り越える。