物事が発する雰囲気を感じ取る力はよく嗅覚に例えられる。政治の世界でも、首相の進退や衆院の解散といった政局を察知できた人物は「鋭い嗅覚の持ち主」などと評される▼政権の幹部が醸し出す切迫感や、党内のどこか張り詰めた空気感を機敏に探知しているのだろう。もしかすると、政治が動く時は独特の異臭を発しているのかもしれない▼今の政権党をすっぽりと覆っているにおいは、古臭さではないか。自民党総裁選は、菅義偉官房長官が立候補を正式に表明する前から主要5派閥が支援を決め、「出来レース」の様相を呈している▼すでに「菅政権」の樹立を見据えて、派閥間の駆け引きも過熱している。政府や党役員のポストを得ようと鼻を利かせてのことだろうが、事実上の次期首相を内輪の論理で決める手法は、なんとも胡散(うさん)臭い▼首相を頂点にした官邸主導の「安倍1強」の終わりをにらみ、旧来型の派閥政治が息を吹き返したかのようだ。長期政権を総括した上でならまだしも、自派の力を誇示する主導権争いに終始すれば、きな臭さも際立つ▼嗅覚がさぞ優れているであろう派閥領袖(りょうしゅう)の面々や党の有力者たちは、不都合なにおいを本能的に嗅ぎ分けているのだろうか。いま一度鼻腔(びくう)を思い切り広げて、世論の空気を吸い込んでみるべきだ。