2019年6月、近大で再会した(左から)中村社長、一ノ瀬、那須さん

2019年6月、近大で再会した(左から)中村社長、一ノ瀬、那須さん

6月中旬に一ノ瀬が投稿した、義手を使ったウエートトレーニングの様子(本人のインスタグラムから)

6月中旬に一ノ瀬が投稿した、義手を使ったウエートトレーニングの様子(本人のインスタグラムから)

 東京パラリンピック出場を目指す競泳の一ノ瀬メイ(近大職、紫野高-近大出)を、京都ゆかりの島根県の義肢装具メーカーが支えている。特製の義手でトレーニングを充実させ、一ノ瀬は2016年リオデジャネイロ大会に出場。活躍を見守る社長らは「東京大会で納得のいく結果を」とエールを送る。

 大田市の世界遺産・石見銀山の麓に位置する義肢装具会社「中村ブレイス」。義手や義足のほか、事故や病気で失った指や乳房を本物と見紛う精巧さで作る技術で知られる。

 創業者の中村俊郎会長(72)は10~20代、京都市の大井製作所で働きながら近大で学んだ。OBという縁で、リオ大会前の15年、近大水上競技部から当時1年だった一ノ瀬の義手の依頼を受けた。一ノ瀬は生まれつき右腕が短く、レースや日常生活では義手を使わないものの、体の左右にバランス良く筋力をつけられないことが悩みだったという。

 製作を任されたのは同社の那須誠さん(43)。運動用の義肢は初めてだったが、30キロを支えられる子ども用の義足の部品を転用した。シリコーン素材で、腕の先端を包む、肘の上まで覆う、固定する―の3層の構造にし、腕に密着して外れにくく、痛みの出ない義手に仕上げた。

 先端部分は3種類に取り換えられる。ゴムなどを引っ張る、バーベルを上げる、腕立て伏せやヨガなどさまざまなトレーニングが可能になった。成果はすぐに現れ、「最初の1年で、一ノ瀬さんは前腕部が2・5センチも太くなった」と那須さんはうれしそうに振り返る。以降も、より重いものを持ち上げられるよう、義手本体を上腕方向に長くするなど少しずつ改良を重ねた。

 今春、新型コロナウイルスの影響で、一ノ瀬は拠点のオーストラリアでプールの練習を中断せざるを得なかったが、義手を使って室内でトレーニングを続けた。7月には「トレーニングの幅が広がって、今は筋肉がほぼ左右均等‼」と義手を着けた笑顔の写真をインスタグラムに掲載した。

 同社は自転車や陸上の選手の日常用義肢や、下肢まひのカヌー選手が競技で座るシートも手がける。パラリンピックは義肢や装具の力を借りて躍動する選手に、多くの市民が接する機会。会長の長男、中村宣郎社長(43)は「義手や義足でスポーツをする人は地方ではまだ少ない。やってみよう、外に出ようという人が増えるチャンスになる」と期待を寄せている。