クモを食い殺している最中のニールセンクモヒメバチの幼虫

クモを食い殺している最中のニールセンクモヒメバチの幼虫

<いきものたちのりくつ 中田兼介>

 今年のアカデミー作品賞に輝いた「パラサイト 半地下の家族」という映画は、貧しい一家が、金持ち夫婦を操って坂の上の豪邸に入り込み、という作品です。高い娯楽性と美しい絵作りを見事に融合させながら、社会の負の側面を描いたことが評価され、日本でも大ヒットしました。

 パラサイトとは寄生生物という意味です。他の生き物の体の内外にとりつき、栄養を横取りして暮らします。パラサイトには、宿主を操作して自分に都合が良い状況を作らせるものがいます。クモヒメバチはそのような動物です。

 ハチの仲間には幼虫時代に寄生生活を送るものがいて、最終的に宿主を食い殺して成虫になります。クモヒメバチは、クモの体の表面に卵を産みつけます。ふ化した幼虫はクモの体にとりつき体液を吸います。最初、幼虫は小さいのでクモは少しくらい体液を吸われても平気です。網を張ってエサを捕るクモが宿主の場合、網は家であると同時にエサを捕るための道具なので、宿主は普通に網を張って暮らしています。クモがエサを食べて栄養を手に入れなければ、幼虫も成長できないからです。

 ですが、幼虫が十分大きくなって今からクモを食い殺そうというときには、エサを与える必要はありません。ですから幼虫はサナギとなって網の上で過ごす間、強風などで壊されるのを防ぐために、クモを操り網を張らせます。この網にはエサを捕らえるネバネバした糸はなく、代わりに骨組み用の糸だけが何重にも補強された形をしています。

 映画「パラサイト」で、坂の上の豪邸は格差社会の象徴です。主人公たちは金持ち夫婦に取り入ることはできても、豪邸は変わらずそこにあり続けます。一方、クモヒメバチは網も思いのままに変えさせます。寄生生物ですが、強力無比なのです。(京都女子大教授)

◆中田兼介 なかた・けんすけ 1967年大阪府生まれ。京都大大学院で博士号取得。著書に「クモのイト」「びっくり!おどろき!動物まるごと大図鑑」など。「図解 なんかへんな生きもの」を監修。