おおしまん・なおと 1954年生まれ。地震発生、火山噴火に関わる地球内部う電磁気学。阪神大震災後、淡路島・野島断層の調査団に加わる。京都大防災研究所所長などを歴任し、今春退職。

 1月以降、新型コロナウイルス感染症により国難とでも言うべき状況にある。この間、未知のウイルスに関するさまざまな報道から、地震・火山に係る研究を行ってきたものとして、臨床医療、新知見、政策との関係について、考えさせられることが多かった。

 当初、新型ウイルスは風邪に似ていて重篤(じゅうとく)な肺炎症状を引き起こすというだけの認識であったが、さまざまな症例が蓄積されるにつれ、ウイルスによる炎症が本質であり、この炎症を引き起こす部位によりさまざまな症状が出ることが明らかになってきた。さらにこの過程で免疫暴走まで引き起こす場合もあるようであり、非常に厄介な感染症である。

 未知のウイルスに関する知見が増えていくという過程は、言い換えれば、新型ウイルス感染症を理解するためのモデルがより深化し変容してきたとも理解することができる。この深化の途中での臨床・政策への反映という臨戦状態の難しさでもあった。

 地震観測の歴史は高々140年程度であり、地質学、地形学などにより観測以前の時代の地震痕跡を捕まえることができるにしても、プレートの沈み込み境界において100年程度の間隔で繰り返す巨大地震の全体像を詳細に把握することは容易ではないし、得られた新知見(モデル)自体を検証することはもっと難しい。

 東日本大震災後、「想定外」とならないため、津波の波高予想として海岸の各地点での最大限の値を出しそれに備えようということになった。政策としては、最大限のリスクを想定しそれに備え、被害を最小限にするということである。しかし、最大限の外力に完全に対応することも非常に難しい。また、その最大限のリスクはどの程度の割合で発生するのかということに関しては科学的には答えられていない。

 地震波記録や地表変位を基に断層の動きとしてモデル化し、地震発生直後からの一連の現象を理解しているだけである。長い時間の流れの中で、その時に、なぜそのような断層の動きをしたかに関して答えることは、実は容易ではない。その場所で繰り返す地震現象を総合的に理解するという観点に立てば、新型コロナウイルスと同様に、現在、科学的な知見を積み重ねている最中なのである。

 「想定外」をなくすことは防災政策として大切ではあるが、新「知見」とされた事項をさまざまな側面から検証してゆくとともに、研究者はその「知見」の限界も正しく認識することが重要であると思この頃である。(京都大名誉教授)