今夏の伏見稲荷大社の裏参道。新型コロナウイルスの影響で、人影はまばらだ(8月21日、京都市伏見区)

今夏の伏見稲荷大社の裏参道。新型コロナウイルスの影響で、人影はまばらだ(8月21日、京都市伏見区)

 コロナ禍で観光客の激減した京都市伏見区の伏見稲荷大社周辺の地域が、歴史や信仰を重視した新たな誘致策に動き出している。客の減少で経営に苦しむ店がある一方、ごみのポイ捨てや交通渋滞に悩んだ以前の状態に戻りたくないとの思いを抱く住民も多いからだ。共存を目指し、地域の模索が続く。

 大社周辺では昨年まで、外国人を中心に観光客の急増が続いた。伏見区役所深草支所の推計で、伏見周辺を訪れた日本人観光客と大社周辺の外国人観光客を合わせると、2013年の429万人から19年は1122万人に増えた。特に外国人は52万人から461万人と大幅に伸びた。

 それが今年2月以降は急減。下京区のITベンチャー「アドインテ」の調査で8月14~17日に大社周辺に滞在した人(住民も含む)は19年より35%ほど減った。同社は「緊急事態宣言解除やGoToキャンペーンなどがあっても、完全回復していない」とみている。

 「去年は1日100台以上見た観光バスが、2月以降は10台もない。ジェットコースターのように上がり下がりした」。大社裏参道で神具店を営む男性(49)は振り返る。訪日客向けのレンタル着物店や飲食店の撤退もあったといい、経済的には苦境に立つ。

 だが、観光客が爆発的に増えた際、散乱するごみやレンタル自転車の放置に悩んだ苦い経験がある。短絡的な観光誘致には警戒感もあり、住民の男性(71)は「食べかすや空き缶が路上だけでなく、自宅の植え込みにも捨てられていた。今の状況は寂しいが、去年の姿には戻ってほしくない」。

 にぎわいは取り戻したいが、かつてような混乱は勘弁してほしい-。観光客の来訪によるコロナ感染拡大にも不安を抱える地域事情を踏まえ、深草支所や商店主、住民などでつくる「伏見稲荷大社周辺の住みよいまちづくり会議」が動き出した。コロナ感染予防に向けた研修会に加え、地域の歴史や文化に関する情報の動画発信を始めた。

 7月に公開した動画では、大社境内の茶屋で育った俳優の西村和彦さんが「お参りを意識した地域の原点に立ち返る時だ」と呼び掛けた。大社の千本鳥居は全国の人が奉納したものであることや、JR稲荷駅近くの「ランプ小屋」が現存する旧国鉄最古の建物であることを紹介する動画もある。歴史や文化を知り、地域を愛する観光客が増えれば、全体のマナー向上につながる、との狙いだ。

 同会議は11月までに構成団体から行政機関が外れ、商店主や住民らが主導する「伏見稲荷周辺の住みよいまちづくり推進協議会」に発展する。商店主らが地域の知識を深める研修会や、オンラインでの「ご当地検定」も計画。同会議副座長で砂川学区自治連合会の土田勝雄会長(75)は「住民と事業者の双方が納得できる絵を描きたい」と力を込める。