「写真を撮られると魂を抜かれる」という迷信がかつてあった。過去に一度だけ、その理由で取材の写真を断られたことがある。あの男性はどうしているだろう▼革新的な技術に対する警戒心はいつの時代にもあるのかもしれない。今なら社会のデジタル化についていけず、下手に近づいたら危険と距離を置く人は結構いるのではないか▼「ドコモ口座」を使った不正な預金引き出し問題の怖いところは、電子マネー決済に全く縁のないアナログな人にも被害が及びかねないことだ。いわば写真を撮られないのに魂が抜かれるわけで、これでは生きた心地がしない▼悪いのはもちろん不正利用者だが、同時に怖いのはドコモや各銀行のセキュリティーの弱さだろう。ちょっとした「便利」や「お得」の裏に、それに見合わない危険が潜んでいないか▼紙やフィルム、実店舗…そうしたものの価値が息を吹き返している米国などの状況をリポートした「アナログの逆襲」が日本でも刊行されたのは2年前だった。デジタル技術が並外れて進歩した結果、人々が真の利点と欠点を判断できるようになったと著者はつづる▼日本のデジタル化は遅れているといわれる。「逆襲」なんてまだ先のことと思っていたが、今回の問題はそのきっかけの一つになるような気もする。