日本の労働人口の約半数の職業が10~20年後には人工知能(AI)やロボット等に代替可能との推計結果が2015年に野村総合研究所から発表され、話題となりました。埋蔵文化財の発掘調査においても、いずれはAIを搭載したロボットが調査を行う日が来るのでしょうか。今回は、発掘調査にまつわるデジタル化の三つの事例をご紹介します。

インターネット上で公開されている遺跡地図。発掘調査の対象となる地域かどうかがひと目で分かる(写真はいずれも京都府教育委員会提供)

 一つ目は、発掘調査の対象となる「周知の埋蔵文化財包蔵地」(一般的には遺跡と呼ばれます)を調べる方法です。遺跡内で土木工事等を行う場合には、文化財保護法に基づいて事前に届け出等が必要ですが、まずはその場所が遺跡かどうかを確認しなければなりません。

 京都府教育委員会では、昭和47(1972)年に「京都府遺跡地図」を刊行、その後周知の遺跡が次々と確認されるのに伴い、改訂版を刊行してきました。そして2010年からはインターネットを利用したシステムで遺跡地図(遺跡マップ)を公開しています。このシステムは、府自治体情報化推進協議会が運営する「京都府・市町村共同統合型地理情報システム」(GIS)で、防災や観光など府民生活に役立つ情報が多数掲載されています。

 遺跡は、新たな知見により、その範囲が変動しますが、印刷物では改訂版の作成に時間を要するため、長いタイムラグが発生します。また、印刷物の閲覧は場所が限定されるため、インターネットが普及した現在では、GISでの公開は遺跡を確認する方法として大変優れています。

デジタルカメラで撮影した画像を基にした恭仁宮の柱穴3D画像(「Agisoft Photo Scan」で作成)
3D画像から作成された恭仁宮柱穴の断面図
柱穴が見つかった恭仁京跡の発掘現場(木津川市)

 デジタル化の二つ目は、遺跡を記録する方法です。発掘調査では、見つかった柱穴などを図面に記録するため、現地で方眼状に水糸を張って、メジャーで測りながら方眼紙に記入する作業を行います。今では、デジタルカメラで撮影した複数の写真を専用のコンピューターソフトに取り込むだけで簡単に3D画像を作ることができるようになりました。

 さらに、写真上の画像を正面から見たような傾きのない正しい大きさと位置に変換することができるため、画面上でトレースを行うことで、平面図や断面図を作成することが可能になっています。医療現場では、AIが写真から癌(がん)を高精度で検出できる時代ですが、かつて製図用万年筆の腕を磨いた世代にとっては、発掘現場における図面作成技術の進歩に隔世の感があります。

 三つ目は、記録した内容をお知らせする方法です。発掘調査の終了後はその結果を報告書として記録、保存します。これは現在でも印刷物として刊行され、図書館等で閲覧し活用できるように配備されています。しかし、遺跡地図と同様に印刷物では閲覧場所が限定されてしまいます。そこで、発掘調査報告書をインターネット上に公開し、必要とする人が誰でも手軽に調査・研究や教育に利用できる環境の構築を目指して2015年6月、「全国遺跡報告総覧」が公開・運用されました。

 この事業は、国立文化財機構奈良文化財研究所を代表機関として、自治体、大学、博物館等が共同で推進しています。府教委では、昨年度に刊行した報告書を公開しており、今後それ以前の報告書も順次公開予定です。また、府内の他機関においても掲載が進みつつあります。全冊分が低解像度のPDF形式のファイルとして閲覧できるものと抄録のみのものがありますが、検索機能が使えますので、これまでより調べる速度が飛躍的に向上します。

 発掘調査は本来なるべく最小限とし、遺跡を後世に残すこととしていますが、やむなく発掘調査を行った場合でもこのような新しい技術を採用することで、その成果が使いやすく、分かりやすい、みんなの貴重な財産となります。遺跡地図や報告書の中には、文化財を守ろうと奮闘した先人の方々やその意志を継ぐ者の思いが詰まっていますが、将来、遺跡や発掘調査の膨大なデータを駆使するAIが出現したとしても、それを主体的に活用することが遺跡を守り、これからのまちづくりや人づくりにもつながるものと考えています。(京都府教育委員会文化財保護課企画調整担当 鍋田勇)