イラスト・冨田望由

イラスト・冨田望由

<いきものたちのりくつ 中田兼介>

 タコといえば、大きな頭に8本の腕、というイメージでしょう。ですが、頭のように見えている部分は実は胴体で、胃やその他の内臓が詰まっています。じゃあ脳はどこ? というと目と目の間にあり、その下に口が開いています。つまりタコは上から下に、胃があって、脳があって、口があって、という順に並んでいます。こう聞くと、少し心配になります。食べたエサを胃に運ぶのに脳が邪魔をするのでは?

 でも大丈夫。タコの脳はその真ん中を食道が貫通していて、エサはドーナツ状の脳の穴をくぐり抜けて胃へと流れていきます。なんという不思議な体の作りでしょう。タコは肉食で、カニや貝をバリバリ食べます。私など魚を食べるとたまに骨が喉に刺さって四苦八苦しますが、タコは何か食道に刺さって脳が傷つかないのでしょうか? そうでなくてもエサが通ると食道は変形しそうです。脳は変形しないのでしょうか? どうしてこんなアクロバティックな体なのでしょう? 謎だらけです。

 それだけではありません。タコの持つ神経細胞のうち頭にあるのは全体の1/3で、残りの2/3が腕1本1本に広がっています。8本の腕それぞれが独自の脳を持っているようなものなのです。おかげで、腕は頭から指令を受けなくても、自力で周囲の様子を探り、動くことができますし、本体から切り落とされてもしばらく生きて、エサがあると捕まえて存在しない口に持っていこうとさえするのだそうです。中央の脳抜きで、腕同士で情報のやりとりを行うこともわかっています。

 こんなタコを、体全体が脳のようなもの、という人もいますし、九つの脳が一つの体に同居しているようなもの、という人もいます。それは一体どのような感覚なのか。一度でよいからタコになって経験してみたいものです。(京都女子大教授)


◆中田兼介 なかた・けんすけ 1967年大阪府生まれ。京都大大学院で博士号取得。著書に「クモのイト」「びっくり!おどろき!動物まるごと大図鑑」など。「図解 なんかへんな生きもの」を監修。