松宮芳年「堺の相生橋」

<ミュージアムのちから コロナ禍に考える>

 京都市立芸術大学芸術資料館(京都市西京区)のコレクションの核は卒業作品だ。歴代の前身にあたる各校から現在まで、卒業の課題として制作された作品を収蔵してきた。日本画の村上華岳、土田麦僊、上村松篁ら著名作家の作品もあるが、無名の作家も多い。

 だがそれらにも「非常にいい作品が多い」と学芸員の松井菜摘さんは力を込める。例えば日本画で、戦前に帝展や文展など官展を目指した生徒の作品は技術が飛び抜けて素晴らしい。

 著名作家でも、後年の円熟期とは異なる「卒業作品ならではの力を持つ」と松井さんは指摘する。卒業作品は画家にとっても特別な存在で、その収蔵は他館にはできないことだ。

 松井さんが好きなのは京都市立絵画専門学校(絵専)に学んだ松宮芳年の卒業作品「堺の相生橋」(1911年)。レンガ製造・輸送でにぎわう堺の運河の情景を描く。橋の往来、工場の煙、船の作業などを明快な線で描く。細かい部分まで動きがあり見飽きない。下半分を運河が占める構成も開放的だ。

 中には若くして亡くなった人もいる。35年に絵専を卒業した南家(なんけ)有吉は、官展に複数回入選し、当時の人気画家中村大三郎の画塾展にも出品するなど才能豊かな若手だった。だが出征、戦地で落命した。資料館には有吉の卒業作品「田園早春」が残り、今年の大学創立140周年記念展でも展示された。

 

南家有吉「田園早春」

 同館は明治以来、教育のために集めてきた資料も収蔵する。その一つ、「土佐派絵画資料」は、大和絵の伝統技法で宮廷の絵所預も(えどころあずかり)務めながら近代に衰退した土佐派が絵画制作に用いた資料群だ。資料散逸の危険もあったが、水産学者松井佳一が一括購入し、友人の長崎太郎が校長をしていた京都市立美術大(芸術大の前身)に寄付した。

 狩野派と並び、日本美術史の本流を担った土佐派の資料だけに、室町時代の将軍足利義輝や武将の三好実休らの肖像の下絵が残る。迫力に満ち、彼らの帯びた空気を伝える資料として歴史的にも意義深い。

 多様な収蔵品を紹介するのは至難の業だが「市民や学生に、こんな作品や資料があると知ってほしい」と松井さんは毎回、展示の切り口や見せ方に心を配る。


 


 京都市立芸術大学芸術資料館 卒業作品と、教育現場で活用された資料などを合わせて4万2千点を所蔵する。「ニューギニア民族資料」は、1969年に大学関係者が調査団を組み、現地で収集した。近年では絵専卒業生の清水芳夫さんが集めた南米古土器コレクションを収蔵。動物や人をモチーフにした素朴で温かみのある造形で、学生の創作に生かしてほしいと松井さんは期待する。京都市西京区大枝沓掛町。075(334)2232。