新型コロナウイルス感染の抑え込みは一刻も早いワクチン開発が鍵となる。とはいえ安全性の確保をおろそかにしてはなるまい。

 米ファイザーや英アストラゼネカなど欧米の大手製薬9社が、安全性を最優先してワクチン開発に取り組むという異例の共同声明を発表した。

 接種により健康が損なわれることはあってはならない。安全性優先は当然なのにあえて強調したのは、政治的な判断で検証が不十分なまま導入されかねないとの懸念が強いためだ。

 声明は、臨床試験(治験)や製造に際して科学的、倫理的な高い基準を維持すると宣言。治験の最終となる第3段階で安全性と有効性を実証できた場合にのみ、当局への承認を求めるとした。製薬会社として妥当な姿勢と言える。

 背景には、国際的な開発競争の激化がある。各国が新興国へのワクチン提供で影響力を強める狙いもあり、開発レースでしのぎを削っている。世界保健機関(WHO)によると、約170の開発計画があり、一部は治験の最終段階に入ったとされる。

 安全なワクチンを市場に提供するには、巨額の開発費や高い技術力が要る。加えて動物実験から始め、被験者数を増やす3段階の治験を経て有効性や安全性を確認する。承認を得るまで数年から10年以上かかるのが通例とされる。

 ところが、トランプ米大統領は11月の大統領選前のワクチン完成を求め、早期開発に前のめりだ。米政権は治験終了前でも、食品医薬品局(FDA)が緊急使用許可を出す可能性に言及しており、政治的な思惑への警戒心は強い。

 ロシアもプーチン大統領が治験の手続き簡素化などを指示。3段階目の治験を省き、2段階を終えた8月に「世界初」という自国産ワクチンを承認したものの、安全性への懸念が出ている。

 そんな中、年内供給を目指すアストラゼネカが先頃、全世界での治験を一時中断した。被験者に副作用が疑われる深刻な症状が発生したためだ。政治的圧力が強まっているとはいえ、疑義が生じれば安全性を第一に慎重な対応が欠かせない。日程優先は禍根を残す。

 感染者数は世界で3千万人に迫る勢いだ。緊急事態であるのは言うまでもないが、急げば急ぐほど安全性の担保は難しくなる。新型コロナのワクチンは開発期間を短くするため、新規性の高い技術が使われ、重い副作用が生じる懸念を拭えない。例外的な取り扱いは極力慎むべきであろう。