9月15日 眠る鉛筆
 私の勉強机はまだ実家にあって、引き出しの中には使い切れなかった鉛筆が休んでいます。兄の子どものものも交ざって結構な本数。多くの筆記用具は捨てられましたが、鉛筆は50年たってもなお現役。六角形、丸形、三角。キャラクターもの。4Hから6B、Fなんてものも。1本ずつ眺め、かちゃかちゃ転がすと、当時の教室の様子まで思い出させてくれる。「千人の十二歳の解く算数の鉛筆の音が冬空を圧(お)す」(森尻理恵)

9月16日 鉛筆を削る
 鉛筆は子どもが小学校に通い出してからまた近しい存在になりました。鉛筆作法は小1の子に教えるべき大事な課題。1本ずつ丁寧に名前を書き、鉛筆削り器でぴんととがらせ、短くなったら補助軸に付けて使う。端をつまんで振るとぐにゃぐにゃに見えるとか、サイコロにもなるよとか。肥後守(ひごのかみ)(小刀)での削り方も教えねばなりません。「けずった木屑(きくず)を燃やすと バラモンのにおいがする」と書いたのは詩人・西脇順三郎。

9月17日 色鉛筆が欲しい
 知り合いのデザイナーが持ち歩く巨大なかばんの中身を見せてもらったら、何十本もの色鉛筆が飛び出してきました。その美しく鮮やかなこと。「塗ってるだけで楽しいんです」。言われてみれば子どもたちも勉強より楽しげに塗り絵をやっています。プロの彼のはスイス製の高級品ですが、私も買いそうになっている現在。120色セットは欲張りすぎかな。「草わかば色鉛筆の赤き粉のちるがいとしく寝て削るなり」(北原白秋)

9月18日 ボールペン買ひに
 「これで30円 まっくろけのけ♪」は北島三郎が歌う1969年のボールペンのCMソング。日常の暮らしで最も使われるこのペンは、色美しく、線が途切れず、すぐ乾き、ボテない(インク漏れしない)、消せる等々、開発とアピールが繰り広げられ現在に至っている気がします。どんな新製品が出ているのか文具店をのぞくのは一つの楽しみ。「ボールペンはミツビシがよくミツビシのボールペン買ひに文具店に行く」(奥村晃作)

9月19日 万年筆で書く手紙
 私がいた暮しの手帖社では、原稿依頼の際、手紙を使います。多くはなぜか万年筆にブルーブラックのインク。手間はかかるのですが、丁寧にしたためている編集者たちの姿はすてき。私自身も手紙にはずっと太字の万年筆を用い、この濃い青色を好んでいたので、入社時は旅の良き仲間と出会った気分でした。内容は同じでも、電子メールや印刷されたものと、インクで書かれた自筆の手紙とは全然違う。不思議ですが真実です。

9月20日  ザッツ・マジック!
 海外取材の撮影時、油性の太ペンが必要となり街の雑貨屋さんで「マジック」と言ってみたけど通じなかった。そりゃそうだ。マジックインキは日本での商標です。英国の友人に聞くと「マーカーペン」と言い「多くは日本製で高価」だそう。それはともかくわれらのマジックの今もある「?(はてな)」マークと「魔法のインキ」、クラシックな文言が頼もしい。あらゆる行事を支えてきた陰の実力者です。ふたはきちんと締めること。

 

~貴族の鉛筆~

 

<文 澤田康彦 絵・題字 小池アミイゴ>

 自分のことをけちだとは思いません。むしろお金遣いはたぶん荒い方。新製品に弱いし、ブランド品も気にするタイプ。誰かに何かをあげたり、ごちそうしたりするのは好きで、気前は悪くないと思う。絵本「ぐりとぐら」の「けちじゃないよ ぐりとぐら♪」って歌がお気に入り、子どもが「これぼくの」とかせこいことを言うと歌い出す。

 前に母が妻に「康彦は貴族趣味やから」と言ったそうで、貴族ではなく貴族趣味ってあたりも恥ずかしいのですが、ここで母の語る貴族趣味とは、子ども時代のぼくがボンカレーよりボンカレーゴールド、ミルクキャラメルよりハイソフト、ネスカフェよりゴールドブレンド…を好む傾向にあったくらいの話にすぎないのですが、でも確かにそういう面は今もあるかもしれない。当時のCMで言う「違いの分かる男、だばだ~♪」でしょうか。

 しかし自分で思うに、実の正体は始末屋。もったいながり。どうも捨てるタイミングが判断つかない。靴もパンツもTシャツも帽子もカバンも迷う難物ですね。使えるか使えないか? 違いの分からない男、だばだ~♪

 鉛筆はその最たるものです。だってがんばればぎりぎりまで使えるから。補助軸につなげれば全くOK。卓上の鉛筆削り器では限界でも、簡易削り器だとまだ削れる。先日の1面コラムで実家の勉強机にはたくさんの鉛筆が休んでいるなんて書きましたが、この中には実に短いものもあり、つまりは捨てる判断がつかぬまま放置された存在なのでした。

 娘と息子がぼくの人生に登場してきて、また鉛筆との付き合いが始まった。2Bの濃い芯のものが中心。子どもには短くなった鉛筆は変な書き癖がつくため、10センチ以下になると父のぼくが譲り受ける。これを1本ずつ、ぎりぎりのぎりまで使っているわけです。自分の知る限りステッドラー製の極小・銀色の削り器が最優秀で、2センチ近くまで行ける。この短さまで来るとさすがに補助軸も無理で、やっとお払い箱か…と言うとさにあらず! 既にそのチビ鉛筆に情が移ってしまっていて捨てるに忍びず、きれいなキャンディの瓶に丁寧に収め、あとは飾って眺めるという既にゲーム気分。これはこれで、ある種の貴族かもしれませんね。違うか。(編集者)

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澤田康彦 さわだ・やすひこ 1957年生まれ。編集者・エッセイスト
小池アミイゴ こいけ・あみいご 1962年生まれ。イラストレーター