トゲオオハリアリ。1匹1匹を見分けるために黄色のマークを付けている

トゲオオハリアリ。1匹1匹を見分けるために黄色のマークを付けている

<いきものたちのりくつ 中田兼介>

 みんなで少しずつ力を出し合って、一人ではできないことを可能にする。これが社会を作るメリットです。しかしここには落とし穴があります。自分は何もしないでみんなの成果にただ乗りする者が出てくると、お互い協力しようという姿勢がどんどん減って社会が回らなくなる可能性があるのです。

 アリの場合、卵を産むのは女王だけで、働きアリは自分では子を産まず、女王の子を育てるために働きます。この役割分担はアリの社会の骨組みですが、実は多くの種で、働きアリは卵を産む能力を持っています。ですがその能力を自分のためには使わず、みんなで協力して働いているのです。どうして働きアリには、自分だけ産卵しようとするただ乗り屋が現れないのでしょうか? 理由の一つとして、働きアリ同士が互いに監視しあっているということが考えられています。

 沖縄にいるトゲオオハリアリでは、女王役のアリ(以下女王と呼ぶ)が近くで目を見張らせていると、働きアリの多くはおとなしくしており、時々働きアリが産卵しても、女王に見つかると食べられてしまいます。ですが、働きアリを女王から一時的に隔離してやると大勢が産卵を始めるので、彼女たちを女王のいる巣に戻してやると、女王だけでなく普通の働きアリたちまでが、隔離されていた働きアリの産む卵を破壊して回るようになります。ときには産卵するアリの脚に四方からかみつき、はりつけにすることもあります。

 このような自警団的活動は普通はあまり起こりません。抜け駆けが許されないのですから、自分だけ産卵しようという働きアリはほとんど出てこず、秩序が保たれます。しかし同時にその平和は隣組的な厳しい監視によって成り立っているわけです。私は人間で良かったと思います。(京都女子大教授)

◆中田兼介 なかた・けんすけ 1967年大阪府生まれ。京都大大学院で博士号取得。著書に「クモのイト」「びっくり!おどろき!動物まるごと大図鑑」など。「図解 なんかへんな生きもの」を監修。