東寺は京都市南区に所在する真言宗総本山で、正式には教王護国寺と称します。平安京遷都と同時期に、都のメインストリートであった朱雀大路の東西に、西寺とともに創建された官寺で、その後、嵯峨天皇から弘法大師空海に託されてからは、真言密教の根本道場として信仰を集めてきました。御影(みえい)堂(大師堂)は、境内西北にある西院の中心となる建物で、三つの棟が組み合わさる複雑な屋根が特徴的です。現在の建物は室町時代に再建されたものですが、落ち着きのある優美な姿は弘法大師の住房の形式を今に伝え、国宝に指定されています。

 現在、京都府教育委員会が工事を受託し、御影堂の檜皮葺(ひわだぶ)きの屋根葺き替えや、建具の漆塗り修理などを行っています。建具とは、いわゆる扉のことで、御影堂には格子の引戸や、上にはね上げて開ける蔀戸(しとみど)などが用いられています。これらには漆塗りが施され、建物を美しく装飾するとともに、木部を風蝕から保護します。

修理前の東寺御影堂(2016年9月撮影)府教委提供

 日本の漆塗り技術は、縄文時代から存在したと考えられ、接着剤の用途から工芸品の仕上げ材料まで、広く日本の伝統文化を支えています。漆の木から採取される生漆はウルシオールという樹脂分を主成分とし、その他に水分やゴム質などを含みます。漆の木は、日本や中国、東南アジアなどで生育しますが、成分の割合は産地によって異なり、日本国内では、日本の風土に合った国産の漆を用いるのが望ましいとされています。この生漆にさまざまな自然原料を練り込んだものが漆塗りの材料で、工程ごとに混ぜ物の成分や粒子の大きさ、漆の純度を変えて使い分けられます。

事前調査によって現れた塗膜層の重なり=府教委提供
古い塗膜層を削り落とす作業=府教委提供

 一般的な漆塗りの工程では、まず粒子の粗い材料を木地に塗り、その上に、より粒子の細かいものを塗って研磨する…という作業を繰り返して、表面を滑らかに整えます。こうした手間をかけられた漆塗りは非常に安定した性質を持ち、また、合成化学塗料とは違う、風合いのあるツヤを放ちます。

輝きを放つ漆塗装面。この後、格子内に白い胡粉塗りを施す=府教委提供
新たに漆塗りを施す作業=府教委提供

 ただし、漆にとって紫外線は大敵です。修理前の御影堂の建具のうち、日光に触れる外部の塗装は、漆の成分が分解されて白化し、さらに亀裂が生じて剝離(はくり)するなど、劣化が激しい状態でした。傷んだ塗膜に塗りを重ねることは難しいため、修理の際には古い漆塗りをかき落とし、新たに漆塗りを施さざるを得ません。文化財の修理では、できる限り修理前の材料を残すことが求められますが、前述のような理由から、建物外部の塗装は、古いものが残りにくいという実情があるのです。

東寺境内図

 ところが、御影堂のある一室の建具の内側には、古い漆塗りが残っているということが、事前調査から判明しました。この部屋は建具の開閉が少なく、室内側では紫外線の影響が小さかったことが、漆にとっては好条件であったと考えられます。漆塗りの層を段階的に削る調査を行ったところ、部位によって材料の重なり方が異なり、過去の修理の積み重ねと見られる箇所もありました。そこで今回の修理では、建物を装飾・保護するという役割を果たしつつ、古い塗膜層を極力残すことを両立させるため、建物外部と内部の漆塗りの修理方法を変えています。

 2020年には修理が完了しますので、東寺にお越しの際は是非、御影堂にもお寄りください。(京都府教育委員会文化財保護課建造物担当 栁晴子)