かなりマニアックな映画を見に行っても、自分以外の観客は結構いるものだ。過去に1度だけ、1人だったことがあった。見たのは黒沢清監督の「回路」(2001年)▼「もう1人の世界のクロサワ」とも言われ、先日にはベネチア映画祭で監督賞を受賞したが、まだそれほど知られてない頃だったか。ネットを巡るホラーという怖い内容が一層身にしみて、ぜいたくな体験でもあった▼新型コロナウイルスで大きな打撃を受けた映画館も少しずつ以前の姿を取り戻しているようだ。公開が延びていた京都アニメーションの新作は大ヒットしている▼大勢の人と一緒にスクリーンに向かうのは映画の楽しさだが、コロナ対策で席が空くのもゆったりしていいと思うのはぜいたくだろうか。気が付くと社会的距離にも心地よさを感じている▼そんな日々の反動か、4連休の人出は各地で昨年を上回るほどだったという。感染不安はあっても、出かけた先で人の波に流されるとまあいいかとなってしまった。困ったものだと反省する▼「われわれはなぜ映画館にいるのか」。作家の小林信彦さんが愛するB級映画などについてつづった名著の印象的なタイトルを思い出す。マスク以外は前と変わらない雑踏の中で、ふと「われわれはなぜここに―」と周りを見渡した。