土俵のようなところで、当時のレーガン米大統領とソ連のチェルネンコ書記長が殴り合う。ダイアナ妃の気をひこうと、チャールズ皇太子が火の輪くぐりをする…▼そんな印象的な音楽ビデオを見たのは35年ほど前だったか。もちろん、そっくりさんだ。米グラミー賞で日系人ヒロ・ムライさんのビデオが最優秀賞を受けたというニュースに、ふと思い出した▼ムライさんの父は「翼をください」などで知られる作曲家村井邦彦さん。受賞作「ディス・イズ・アメリカ」は実際の事件をほうふつさせる銃殺シーンなどが織り込まれ、「これがアメリカだ」と過激に告発する▼歌は世につれという。ビデオもそうなのだろう。冒頭に挙げたのはいずれも風刺や皮肉の効いた英国のヒット曲だが、米国のものは総じて能天気だったと思う。社会が変わったのか。それとも変わらなさすぎて、こうなったのか▼日本でも人気グループ「欅(けやき)坂46」の新曲のビデオがファンの話題になっている。自殺やいじめをほうふつさせる内容が重苦しい▼トランプ大統領は壁建設のため、非常事態宣言を発令するという。これがアメリカか。受賞作は歌手が何者かに追われ、必死の形相で逃げる場面で終わる。こんな社会から飛び立つ翼をくれよ-そう願う余裕すらなさそうなのが怖い。