安倍晋三首相や政権幹部の粗っぽい発言が気になる。

 安倍首相は先週の自民党大会で「自衛隊員募集に都道府県の6割以上が協力を拒否している」と発言した。

 原因は自衛隊違憲論で、協力を得るには憲法改正が必要だという。事実と論理の両面で、根拠を欠く発言だ。

 自衛官募集で防衛省が協力を求める相手は都道府県ではなく市区町村である。

 自衛隊法では、自治体は法定受託業務として自衛官募集に協力することになっている。防衛省はこれに基づき、全国の市区町村に適齢者の氏名や住所などの提供を依頼する。

 首相は国会で発言を修正したものの、「6割以上の自治体」の主張は変えていない。

 実際には約9割の自治体が名簿の提出や閲覧、書き取りに応じている。

 京都市は今年から住民基本台帳を基に18歳と22歳になる市民の宛名シールを作成し自衛隊に提出する。市の審議会で承認されたが厳しい批判がある。

 自治体は、住民の個人情報保護と自衛隊への協力を両立する必要がある。自治体によって対応が異なるのは、それぞれの判断によるものだ。違憲論があるからではない。

 自衛隊を憲法に明記したら自治体からの名簿提出が進むのだろうか。改憲が首相の悲願とはいえ、論理があまりにも飛躍している。

 1月のNHKの番組では、沖縄県名護市辺野古の米軍基地建設工事について、「土砂を投入するにあたり、あそこのサンゴは移植した」と発言した。

 現在、土砂が投入されている海域には元々サンゴが生息していない。一方、計画海域全体で移植が済んだのは9株にすぎない。沖縄県は事実誤認と強く反発している。

 安倍首相は常々、自身に対する野党からの批判に「印象操作だ」と気色ばんで反発することがある。その批判は自分自身にも当てはまるのではないか。

 首相周辺も同様だ。首相官邸が昨年末、菅義偉官房長官の記者会見で「特定の記者が事実誤認の質問をした」として、「事実を踏まえた質問」を要請する文書を内閣記者会(記者クラブ)に出した。

 記者は会見でさまざまな角度から質問し事実や課題を浮かび上がらせる。質問を封じるような要請は本末転倒である。質問が事実でなければ丁寧に説明するのが政府の役割ではないか。

 麻生太郎副総理兼財務相は今月、「子どもを産まないほうが問題だ」と発言し、桜田義孝五輪担当相は競泳の池江璃花子選手の白血病公表を「がっかりしている」と語った。

 自らの発言がどう受けとめられるのかを考えず、主張や感情を一方的に口にするのは政治家失格である。

 安倍政権は今月23日で吉田茂政権を抜き戦後単独2位の長期政権となり、11月には憲政史上最長になる。無思慮な発言は長期政権のおごりと緩みから来ている。

 歴史に名を残すためには、何が必要か。首相や政権幹部は深く考え直してもらいたい。